第6回「科学的に探究する力を」 先生たちは退職後も放射線教育と向き合う

有料記事原発事故 教え子に向き合う

斎藤徹
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 2月下旬、福島県三春町にある「コミュタン福島」を、県北地区の小学6年生が授業の一環で訪れた。事故直後の東京電力福島第一原発の精巧な模型や、原発から漏れ出た放射性物質が飛散した範囲を示したプロジェクションマッピング原発事故を詳細に示す展示を、児童たちは真剣な表情で見つめていた。

 「君たちがまだお母さんのおなかの中にいたころ、原発から出た放射性物質で、福島の人たちはとても苦労したんだよ。どれくらい危険なのかわからなかったからね」。運営ディレクターの檜山徹(53)が、子どもたちに語りかけた。

 コミュタン福島は、原発事故を機に注目されることになった放射線について、子どもから大人まで体験しながら学べる教育施設だ。

 原発事故直後、放射線に対する県民の不安が高まったことや、県外に避難した子どもたちが他県の人たちの放射線への理解不足などによりいじめられる問題が相次いだのを受け、「放射線を正しく知り、正しく恐れる」ことを主軸に据え、県が設置した。2016年に開館し、これまでに県内外から60万人が訪れた。

 来館者に説明するスタッフは約20人。難解な放射線についてわかりやすく説明できるよう研修を重ねている。「科学的知見に基づいたファクトのみを提示する」ことにも細心の注意を払う。事故を起こした東電の責任追及や原発から出る処理水放出への賛否など意見が割れる事項については、来館者が考える契機となるよう努めている。

線量の観測、実際にやってみる

 展示内容や説明の仕方、体験メニューは、原発作業員らへの放射線研修を行う企業に籍を置く檜山に加え、教員経験者が就く「教育ディレクター」が中心になって考案した。初代の佐々木清(68)は、その礎を築いた一人だ。

 佐々木が郡山市内の中学校で…

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この記事を書いた人
斎藤徹
郡山支局長
専門・関心分野
人口が減っても持続可能な地域づくり
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    佐倉統
    (東京大学大学院教授=科学技術社会論)
    2024年7月10日9時35分 投稿
    【視点】

    「知識は大きな武器になる」。まさにその通り。日常生活において何かを判断するときの基盤になるのは知識だ。それを踏まえた上で、さまざまな選択肢から自分の価値観に合ったものを選ぶ。価値観は重要だが、知識より優先させてしまうと、被害が大きくなったり

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