晩年の瀬戸内寂聴さんの「無二の友」だった俳句 遺句集に見える深淵

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俳句時評 岸本尚毅

 歌壇俳壇面で月1回掲載している、俳人の岸本尚毅さんによる「俳句時評」。今回は瀬戸内寂聴さんの遺句集を取り上げます。

 瀬戸内寂聴の遺句集『定命(じょうみょう)』(小学館)が刊行された。二〇二一年の没後、京都市の「寂庵(じゃくあん)」で見つかった句が収められている。

 剃(そ)りたての頭(つむり)にとんぼ来てとまる

 作者の名があると生彩(せいさい)を帯びる句だ。あの笑顔が思い浮かぶ。小説の読者は、この精力的な作家がたどりついた軽妙な句境をどう思うだろうか。一方で〈うららかや遠い恋文陽(ひ)に干して〉の枯れた感じはどうか。「うららか」は陽春の時候だが、この句は老境の春だ。

 死ぬる日もひとりがよろし陽…

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    杉田菜穂
    (俳人・大阪公立大学教授=社会政策)
    2024年7月6日13時18分 投稿
    【視点】

    こんな句も。 菖蒲湯(しょうぶゆ)に全身ゆだねわが定命  瀬戸内寂聴 句集のタイトルは、この句に拠る。人の命の長さは生まれたときから定まっているという考えのもと、どのように生きて死ぬかということを思って過ごす。菖蒲を入れた風呂に入って健

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