お母さんのカツ丼は店の100倍おいしい これが双子の「勝負めし」

佐藤道隆
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 練習を終えた高田の大西渉生(しょうき)(3年)と県大付の悠生(はるき)(3年)の双子の兄弟が自宅に帰ってくると、家の中は出汁(だし)のいい匂いに包まれている。

 母の久実代(54)は、7枚の豚ロースに丁寧にパン粉をつけると、そっと油の中に落とす。タマネギが入った出汁と卵でカツを包む。大きな丼に盛りつけ、カレー粉で味付けした特大の唐揚げを2、3個加えたら、特製のカツ丼のできあがりだ。

 「はい、できたよ!」

 待ちきれない2人はバクバクとほお張り、あっという間に完食。「これを食べると試合前って感じがして、気合が入ります」。ニカッと笑ってそう喜ぶ。

 2人が小学生の時から続く、大西家の「勝負めし」だ。

 カツ丼を作って試合で負けたこともあった。「ありきたりであかんかったのかなと思ったけれど、やっぱりカツ丼にすると喜んでくれるから、また作るようになって」と久実代は話す。

それぞれの道を歩む兄弟

 2人は「けんかは今までしたことない」と言うほど仲が良い。

 小学生の時、そろって地元・大和郡山市の少年野球チームに入ったが、中学から兄は軟式野球部、弟は硬式の野球チームに。高校もそれぞれの道を選んだ。

 弟の悠生は新設の県大付が生徒を募集することを耳にし、「1期生として野球部を作ってみたい」と入学。仲間や監督を見つけ、1年生の秋に本格的に練習ができるようになり、昨夏の奈良大会に初出場を果たした。

 兄の渉生は「先輩がいる学校がいい」と高田を選び、40人を超える野球部でレギュラーをつかみ取ろうと練習に明け暮れた。

 そんな頑張っている2人の話を、久実代は食卓を囲みながら耳を傾け、見守ってきた。

 2人から試合予定を聞くと、久実代はすぐにスマホのスケジュール帳にメモする。仕事もあるし、直前だとスーパーに食材がないこともある。前日までにお肉を買っておくかどうか、頭をフル回転させる。

 「準備は大変だけど、野球を続けてくれているからこそ、いまもカツ丼を作ることができるし、話も聞ける。私にとっても作るのがうれしいメニューです」

 2人の高校最後の夏が始まる。初戦は悠生が15日で、渉生は17日。もちろん、それぞれの試合前日はカツ丼を作る予定だ。

 「お母さんのカツ丼は肉が厚くて、お店で食べるより100倍おいしい」と渉生。悠生は「仕事で忙しいのに、朝早くからお弁当を作ってくれて、本当に感謝しています」と話す。「この夏は活躍する姿を見せて喜ばせたい」。2人はそう心に誓っている。=敬称略(佐藤道隆)

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