初心者にもおすすめのハイキングスポット5選 必要な道具や服装も紹介

人生100年時代を生きるキーワード:ハイキングの基礎知識

2024.06.27

 

ハイキングの基礎知識
(デザイン:西條那菜)

 ここ何年も中高年のハイキングがブームになっています。山登りは昔からあるレジャーですが、なぜいまそれほどのブームになっているのでしょう。いろいろな理由がありますが、一つにはハイキングが運動不足の中高年の世代にとって理想的な体の動かし方だからという理由があります。

 この記事では、なぜハイキングが体によいか、どんな準備が必要かなど、これからハイキングを始めてみようと思う人に心得ておいたほうがよい知識を解説します。

<目次>


1.ハイキングが人気の理由

 「登山」は、登頂を目的とするスポーツ。技術や体力、経験、そしてしっかりした装備が必要です。一方、「ハイキング」は山を楽しむレジャーです。最低限の装備があれば大丈夫。もちろん自然が相手なので基本的な知識と心構えは求められますが、経験や体力に合わせて、いつまでも楽しめるのがハイキングの魅力です。

(1)健康や体力の維持増進

 日常生活で運動不足を感じている人は多いでしょう。毎日散歩したり、スポーツクラブに入会したりしてなんとか持続的に体を動かす努力をしても、なかなか続かないのが現実です。

 続かない理由の一つは、いつも同じ風景だったり、同じジムだったりして、刺激が少ないこと。また、運動には適度な負荷が必要ですが、自分だけでは適切な強度がなかなかわかりません。

 ハイキングの動きである「歩く」という運動は散歩と同じですが、舗装された道路を歩くのとは異なり、山には平地とは異なる大きな標高差があります。不整地を歩くときには、無意識のうちに体のバランスを維持する運動をしています。たとえば、上りは体重を持ち上げる運動になり、下りでは重力が加わり体重以上の重さを支える必要があるのです。

 このように、山を歩くと、散歩とは比較にならない負荷が体にかかります。とはいえ、それをあまり意識することなく楽しめるのがハイキングのよさです。

(2)長時間歩行(有酸素運動)による脂肪燃焼

 ハイキングはよい運動ですが、「どのように歩くか」を考えないと、初心者にとって、かえって害が生じることがあります。意識したいのは「ゆっくり歩くこと」です。

 ゆっくり歩くことで、長時間歩行(有酸素運動)によって脂肪が燃焼します。また、歩みの一歩一歩が確かになるので、ケガをしにくくなったり、周りの景色を眺める余裕が出てきたりします。おしゃべりをしながら歩いても苦しくないくらいの、ゆっくりしたスピードで歩くのがちょうどよいのです。

 肩で息をするくらい呼吸が荒くならないと運動した気にならない人もいますが、前述の上り下りの運動負荷は呼吸とは関係ありません。

 むしろ、心拍数が上がり呼吸が荒くなると無酸素運動になってしまい、有酸素運動としての効果が低減します。また、必要以上に汗をかくと、体内の浸透圧バランスが崩れ、体への負担が大きくなります。

 さらに、呼吸が荒くなると、状況判断がおろそかになってケガをする可能性が高くなります。精神的な余裕もなくなり、せっかく山に来たのに周りの風景を楽しめないかもしれません。

 「苦しい」と感じないようにすることも、長い距離を歩くコツの一つです。

(3)リラックス&リフレッシュ効果

 ハイキングは体だけでなく、心の健康にも効果的です。標高があまり高くない山は、ほとんどが森に覆われています。木々の間を歩くと気分がよくなるのは、植物から放出されるフィトンチッドという化学物質によるもの。森林浴が体によいことは、科学的にも証明されています。

 また、自然の中を歩く解放感や心の安らぎはいうまでもなく、日常とは違った風景を眺めることは脳にとってよい刺激となります。そのほか、屋外で食事をする、きれいな風景を写真に撮る、季節の花や緑、秋の紅葉など自然を愛でる……。そうした行為は、すべて精神によい影響を及ぼします。

 運動不足の解消だけでなく、ストレスの軽減、精神的な疲れの解消などにも、ハイキングはとても有効です。

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2.ハイキングに必要な持ち物・服装

ハイキングの装いで新緑の山道を歩く女性

 散歩に出かけるときに特別な装備や服装は不要ですが、ハイキングについても最低限のものをそろえればいつでも始めることができます。最初からあれこれそろえたくなりますが、まず基本的な装備から始めましょう。

(1)まずは足元から用意する

 アウトドア用品の店に行くと、あらゆるものがそろっていて目移りしてしまいますが、最初に用意すべきものはシューズ。本格的な登山でなければ、ウェアは代用品でもなんとかなりますが、シューズは必ずハイキングシューズを選びましょう。

 さまざまなタイプのシューズがありますが、防水性を備えていることと、しっかりしたソール(靴底)であることが必須です。舗装された道を歩くのとは異なり、凸凹の路面、とがった岩、大小の石、木の根、ぬかるみや水たまりなどなど、山道ではいろいろな場面に遭遇します。

 自然の中を歩くときには、最悪の状況に対応できるかどうかを考えてシューズを選ぶことが大切です。もちろん機能だけでなく、しっかり足に合っているかどうかは同じくらいに大切。シューズ選びは靴の量販店などではなく、しっかりアドバイスが受けられる専門店で購入しましょう。

(2)ハイキングウェアは少しずつそろえる

 アウトドア専門店であれこれ選んで買うのは楽しいですが、最初は動きやすい運動ができる服装であれば問題ありません。上記のシューズは別にして、何度かハイキングを経験しながら、必要と思われるものを用意していったほうが無駄がないでしょう。

 最初から用意したほうがいいウェアを一つ選ぶなら「レインウェア」です。ハイキングで絶対に避けなければならないのは、体がぬれてしまうことです。体がぬれて体温が奪われると、真夏でも低体温症になり、最悪命にかかわることもあります。天気の変わりやすい山で、急な雨に備えるのはもちろん、風や寒さ対策にもレインウェアが役に立ちます。

 山では気温や天候の変化には重ね着(レイヤリング)で対応するのが基本です。重ね着をしたときに、一番外側にくるのがレインウェアになります。ビニールのカッパなどでも代用できますが、「体をぬらさない」ことを考えると、しっかりしたレインウェアを備えておくのは大切です。

(3)本当に必要かどうかを考える

 どこに、いつ、誰とハイキングに行くかによって荷物は変わってきます。「ハイキングに必要なもの」とインターネットで検索すれば、たちどころに「必要なものリスト」が手に入りますが、本当にリストにあるものをすべてそろえる必要があるか考えることが大切です。

 例えば、リストに「行動食」とあっても、後述する高尾山をハイキングする場合、コースの途中に飲食ができる店があるので行動食はなくてもよいかもしれません。「山は冷えるので夏でも防寒着を用意」とリストにあっても、標高の低い山であれば、上記のレインウェアで重ね着すれば対応は可能です。

 グループでのハイキングなら、手分けして持ち物の負担を軽くすることもできるでしょう。最初は簡単なコースを歩いてみて、実際に必要なものを用意していけば、無駄な荷物を持ち歩かなくても済みます。

 自然を相手にするハイキングでは、対応力が試されます。ここで頭を使うことは、脳にとってよい刺激になるでしょう。

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3.ハイキングをする山選びのポイント

 山の頂を目指してゆっくり上っていくように、ハイキングでも徐々にレベルを上げていくことが長く続ける秘訣(ひけつ)です。最初は簡単なコースから始めて、山の歩き方に慣れるにつれて距離を伸ばしたり、難易度の高いコースに挑戦したりしてみましょう。

(1)無理せず楽に歩けるコースを選ぶ

 どんな運動でも同じですが、最初から自分の技術レベル、体力レベルが把握できている人はいません。いつも1時間散歩しているからといって、山道を1時間歩けるかどうかはわかりません。今の時代、さまざまな手段でハイキングコースの情報が入手できます。まずは、簡単なコースから始めてみましょう。

 ロープウェーやケーブルカーがある山なら、体力を使う上りはロープウェーを利用して、下りだけ歩いてみるのがよいでしょう。逆に、上りは歩いて、下り(帰り道)はロープウェーという方法もあります。

 山を歩いてみて「気持ちがいい!」と思えたらしめたもの。最初の頃は楽に歩けて、歩くことが楽しいと思えるようなコースを選ぶことが大切です。またハイキングに行ってみようと思えるコースを選ぶことが長続きする秘訣です。

(2)アクセスの良さを考える

 楽なコースを選んでも、登山口までたどり着くのが大変では意味がありません。歩き始める前の手間や時間がかからないコースを選ぶことも重要です。ハイキング初心者であれば、まずは公共交通機関(できれば鉄道)でアクセスできるところから始めましょう。

 バスで登山口まで行くコースもたくさんありますが、バスの移動もそれなりに体力を使うので、多少慣れてからのほうが無難です。また、マイカーで登山口まで移動するコースもありますが、ハイキング後に運転をして帰ることを考えると、自身の体力度や技術度がわかっていて、コースの難易度から歩いた後にどのくらい体力が残っているかが把握できるレベルにならないとなかなか難しいでしょう。

 ハイキングは下山したところで終わりではなく、無事に家に帰ってきて、初めてゴールになるのです。

(3)コース以外の楽しみも必要

 中高年のハイキングの一番の目的は、楽しむことです。体力の維持や増進だけを目的にしているだけでは、なかなか長続きしません。幸いなことに、日本には温泉が各地にあります。特徴のある郷土料理もありますし、四季折々の美しい自然もあります。

 単に歩くことを目的とするのではなく、「ハイキング+α」を考えてコースを選ぶと楽しみが広がるでしょう。まず訪れてみたい温泉地を選んで周辺のハイキングコースを探す、気になる郷土料理の食事処を見つけて近くのハイキングコースを選ぶ、花の名所なら開花時期に合わせてハイキングを楽しむ……。

 ハイキングをきっかけに、趣味や行動範囲が広まっていくかもしれません。

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4.【関東近郊】初心者におすすめのハイキングスポット5選

 日本には星の数ほどハイキングコースがあります。無名のすばらしいコースもありますが、初心者はやはり多くの人が訪れる有名なコースから始めましょう。

 そのような場所はアクセスが容易で、しっかりメンテナンスがされているからです。さらに、多くの人がSNSなどで情報を発信しているので、最新の状況を把握できます。

 ここでは、関東近郊にある初心者におすすめのハイキングスポットを五つご紹介します。

●髙尾山:東京八王子市
●鋸山:千葉県鋸南町
●金時山:神奈川県足柄市
●日和田山:埼玉県日高市
●筑波山:茨城県つくば市

 それぞれのスポットの特徴や魅力、難易度について解説していきます。

(1)高尾山(標高599m):東京都八王子市

髙尾山山頂から見る奥秩父連山

髙尾山山頂から望める奥秩父連山。都心の高層ビルや東京スカイツリーのほか江の島も展望できる

 初心者のハイキングデビューにぴったりな山が、高尾山。コースが多く、よく整備されていて、登山口までのアクセスが容易です。また、疲れたら途中からケーブルカーで下山することもできるので、初めてのハイキングでケガなどのトラブルがあったときも安心です。

 標高は599mと高くはありませんが、天気がよければ山頂展望台から富士山が見渡せます。途中から見る都心の風景もすばらしく、周辺の自然も豊か。大雪でも降らない限り、一年中歩くことができます。

 最もポピュラーなルートは1号路ですが、この道は途中の薬王院(やくおういん)までずっと舗装道路で、その先山頂までの道も整備された道なので、途中から3号路や4号路に入って、山道がどういうものか感じながら山頂を目指すのもよいでしょう。

所要時間 上り約100分/下り80分(1号路を往復した場合。上りにケーブルカーを利用すると、上りの時間は半分以下になります)
歩行距離 約7.6km(1号路往復の場合)
アクセス 京王線「高尾山口」駅から徒歩5分
駐車場有り

(2)鋸山(標高329m):千葉県鋸南町

千葉県鋸南町の鋸山山頂から金谷港を眺める

鋸山山頂からのぞく金谷港。千葉県の金谷港と神奈川県の久里浜港をつなぐ「東京湾フェリー」が毎日運航している

 鋸山(のこぎりやま)は、低山ながら東京湾を足下に眺める絶景と、古い石切り場らしいユニークな光景がそこかしこに見られるハイキングコースです。高尾山のケーブルカーのように、登山口のある金谷の町から頂上近くまでロープウェーが設置されています。

 山頂までは複数のルートがありますが、産業遺構が多く見られる「車力道コース」が初心者にはおすすめです。ゴールはロープウェーの山頂駅。実際の鋸山の山頂は、そこから東にちょっと離れた尾根にありますが、景色は断然こちらのほうがよいのでこっちをゴールに。

 途中から日本寺の境内になるので、参拝料を払って先に進みます。「ラピュタの壁」や「地獄のぞき」といった見どころのほか、日本一大きな磨崖仏(まがいぶつ)や千五百羅漢(せんごひゃくらかん)などの参拝スポットもあります。コース上は岩場が多いので、しっかりしたシューズで歩きましょう。

所要時間 約120分(日本一の磨崖仏や千五百羅漢などはコースから外れたところにあり、時間には含まれません)
歩行距離 約2.8km(ロープウェー山頂駅まで)
アクセス JR内房線「浜金谷駅」より徒歩約10分(「関東ふれあいの道コース」および「車力道コース」登山口)
駐車場有り

(3)金時山(標高1213m):神奈川県足柄市

金時山山頂の西側にそびえる富士山

金時山山頂の西側から展望できる富士山。東には房総半島や三浦半島、南には芦ノ湖や大涌谷が望める人気のハイキングコース

 金時山(きんときやま)は、箱根山外輪山の一つです。周辺で一番標高が高いため、天気のよい日は雄大な富士山のパノラマが楽しめます。特別危険な箇所はありませんが、急な上りや階段も多いので、何度か山を歩いて少し経験を積んでからチャレンジするとよいでしょう。

 登山口から山頂までの標高差は約500m。それなりに体力を使いますが、ゆっくり、ゆっくり上れば大丈夫。山頂までの往復になるので、後半は体力が落ちてきます。ケガをする可能性も高まりますので、下りもゆっくり慎重に。

 ルート上の眺望はあまりありませんが、開けた山頂にたどり着いたときには、すばらしい景色と達成感に、苦労が報われた思いがするでしょう。

所要時間 約3時間(登山口から山頂までの往復。頂上での滞在時間は含みません)
歩行距離 4.6km(登山口から山頂の往復)
アクセス JR「御殿場駅」、もしくは小田急線「箱根湯本駅」発の「箱根登山バス」に乗り「金時登山口」下車
駐車場有り

(4)日和田山(標高305m):埼玉県日高市

金刀比羅神社(ことひらじんじゃ)の二の鳥居

日和田山(ひわださん)の男坂・女坂を上った先にある金刀比羅神社(ことひらじんじゃ)の二の鳥居。彼岸花で有名な巾着田(きんちゃくだ)を見渡せる

 地形図で埼玉県を見ると、だいたい西側1/3が山地で東2/3が平野です。日和田山はちょうど山が始まる場所にあるため、標高300mほどの低山でありながら、山頂からは東側に広がる関東平野のすばらしい眺めが楽しめます。

 山麓(さんろく)では、春には菜の花や桜、秋にはコスモスが咲きます。近くの巾着田は、秋には500万本の彼岸花が咲く人気スポット。山頂の風景だけでなく、花々も楽しめるハイキングコースです。

 山頂までの標高差は200mほどですが、緩やかな道を上る「女坂」と歩き応えがある「男坂」の2通りの道があります。ゴールは同じですが、初心者は女坂を歩いたほうがよいでしょう。

所要時間 約1時間40分(登山口から山頂までの往復。頂上での滞在時間は含みません)
歩行距離 約2km(登山口から山頂の往復)
アクセス 西武池袋線「高麗駅」から徒歩約25分
駐車場有り

(5)筑波山(標高877m):茨城県つくば市

新緑の筑波山(つくばさん)

新緑の筑波山(つくばさん)。男体山と女体山の二つの峰を持つのが特徴。四季によって変わるさまざまな表情が楽しめる

 筑波山は日本百名山の一つであり、なかでも最も標高が低い山です。山頂が二つあり、男体山が871m、女体山が877m。それぞれの山頂へ向かうコースや山頂を周回するコース、二つの頂を結ぶコースなど多くのコースがあり、さまざまなレベルのハイカーに愛されています。

 また、山麓(さんろく)から男体山へはケーブルカー、女体山へはロープウェーが設置されているので、高尾山などと同様に、体力に応じて交通機関と組み合わせたハイキングも楽しめます。

 周辺に山がない独立峰なので、山頂から360度のパノラマが楽しめ、条件がよければ茫洋(ぼうよう)と広がる都心の向こうに富士山を遠望することができます。

所要時間 上り約90分/下り約70分(筑波山神社から男体山山頂までの御幸ヶ原コースの場合)
歩行距離 約2km(筑波山神社から男体山山頂までの片道)
アクセス つくばエクスプレス「つくば駅」からシャトルバスに乗り「筑波山神社入口」下車(御幸ヶ原コースの場合)
駐車場有り

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5.心と体に効くハイキングを

 自然のなかを歩くハイキングは、無理なく続けられる運動としてよいだけでなく、精神に安らぎを与えてくれる時間になります。ハイキングを目的に行動範囲が広がり、同時に日本の自然や文化を再認識するよい機会となります。特に中高年世代にはおすすめのアクティビティ。ぜひ始めてみてはいかがでしょう。

(編集者・旅行ジャーナリスト 永岡邦彦、編集協力:スタジオユリグラフ 中村里歩)

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  • 永岡邦彦
  • 永岡 邦彦(ながおか・くにひこ)

    編集者・旅行ジャーナリスト

    国内外の旅行ガイドブックやウェブコンテンツを制作する編集プロダクションオフィス・ポストイットの代表。これまで世界40カ国以上、国内各地で取材経験あり。常に旅行者の目線でスポットの魅力を発信することを心がけている。取材先では「歩く」ことが基本。機会があれば自然のなかを歩き回っている。日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド古谷聡紀の著書『ゆっくりたのしむ山歩き』(永岡書店刊)の編集を担当。

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