<連載> Reライフ山歩き部

夏山歩こう 踏み出せ初心者 山の魅力、そろえたい装備、安全対策は?  

読者会議メンバー座談会「山岳ジャーナリスト・近藤幸夫さんと語る 初心者の山歩き」

2024.07.07

 「今年こそは夏山を楽しみたい」と毎年のように思いつつも、知識不足や体力面の不安などで二の足を踏んでいませんか。これから始めたい人や初心者ならではの疑問や山の魅力について、山岳ジャーナリストの近藤幸夫さん(64)と60~70代の読者4人が語り合いました。

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山歩き座談会に参加した読者会議メンバー

近藤幸夫さん(中央)と座談会の参加者たち=朝日新聞東京本社、樋口彩子撮影

山の魅力 ライチョウを至近距離で 「食」も楽しみ

 「初心者の山歩き」をテーマにした座談会は6月13日に朝日新聞東京本社で開かれ、Reライフの会員コミュニティー「読者会議」(登録無料)のメンバー4人が集まった。近藤さんは長野市の事務所からオンラインで講師を務めた。

 メンバーには、登山経験が「ない」という人もいれば、「数年に1回程度」「年1、2回」という人もいたが、いずれも「初心者」として参加した。近藤さんの「山岳会などで正しい知識や技術を習得していなければ、登山歴20年でも初心者��という考えからだ。

 近藤さんはまず、山の魅力から語り始めた。「登山は典型的な有酸素運動だが、それぞれの年代に合った登り方がある。適切なトレーニングをすれば誰でも楽しめる」

 続けて、朝焼けや夕焼け、雪渓、コマクサやシナノキンバイなどの高山植物、野鳥、ニホンカモシカなど、山で出合った絶景や動植物の写真を見せながら紹介。国の特別天然記念物のライチョウについて「人間が敵ではないとわかっているので、かなり至近距離で撮影できる」と解説すると、参加者の城戸しほみさん(61)は「ライチョウは幻の鳥で、めったに見られないと思っていた」と驚いた。

 「食」も山の楽しみの一つという近藤さん。北アルプス・湯俣の河原でつくる温泉卵や、北アルプス・鏡平の山小屋でのかき氷を挙げた。焼きたてのピザや、スイーツを出す山小屋もあるという。「山小屋でお金を使えば山の環境整備の支援にもなる。おいしいものを目的に登るのもいい」と話した。

 上高地を訪れたいという参加者の佐竹良信さん(60)からガイドツアーの選び方を聞かれると、野鳥や植物、地形などを解説してくれるツアーを薦めていた。

近藤幸夫さん撮影 上高地

北アルプス・上高地。河童(かっぱ)橋周辺は登山客でにぎわう=2023年6月、長野県松本市、近藤幸夫さん撮影

最低限そろえたい装備 初心者は「ストック2本が安心」

 近藤さんがいう「最低限そろえたい装備」は、登山靴、ザックなど8種類。「登山はステップアップのスポーツ。装備は登る山に応じて買い替えればいい」。初心者には容量30リットルくらいのザックを薦めた。そして、登山靴やザックは「登山用品店で実際にはいたり背負ったりして自分の体に合ったものを選んでほしい」とした。

 とはいえ、「雨は初心者だからと言って容赦してくれない」とも。おすすめは防水、透湿性に優れ、防風性もあるゴアテックスという素材のものという。「雨具は最初から質の高いものにすると快適な登山ができる。山を嫌いにならない」と話した。

 登山で使うストックは1本か2本のどちらがよいか。以前、屋久島で登山したときの爽快感が忘れられないという参加者の荒木典子さん(70)が質問すると、近藤さんは「加齢とともにバランス感覚が悪くなる。転倒してけがや骨折をするのがこわいので、50代以上の人はストックを使ったほうがいい」とアドバイス。学生時代から登っている近藤さんも、50歳を過ぎたころからバランス感覚の悪化を実感しているという。自身は「1本派」だが、「初心者は2本のほうが安心感があるかも」。登山道を傷つけないようにストックの先に必ずカバーをつけてほしいとも付け加えた。

◆最低限そろえたい装備
 
登山靴
 ザック
 雨具
 水筒
 ヘッドライト
 ストック
 帽子
 食料

◆安全に登るために
・自分の体力に合った山やルートを選ぶ
・家族らに登る山やルート、同行者の情報を伝える
・登山届を出す
・山岳保険に加入する
・単独ではなく、経験者と一緒に登る

◆上達する、仲間を見つけるには
・山岳会などの組織に所属し、上級者から学ぶ
・登山用品店が開く講習会などに参加する

(山岳ジャーナリスト・近藤幸夫さんによる)

安全対策 「引き返す判断も重要」

 安全対策では、自分のレベルに合った山選び、早く登って早く下りてくること、登山届の提出、山岳保険の加入などが重要になる。

 年に1、2回山に登るという参加者の高野始さん(73)は、登山中に体力の限界を感じたら「また次回」を合言葉にすぐに下山するという。「何かあれば、あうんの呼吸で下山を決断できる人と行くことが大事では」と話した。

 近藤さんは「山は逃げない。疲れたときだけでなく悪天候のときも、引き返すタイミングをあやまると死亡事故につながることがある」として、「高野さんは非常にいい判断。引き返すのは弱音でもなんでもない。みなさんも心がけてほしい」と呼びかけた。

(取材・文 南宏美)

  • ライチョウ、翔んだ。
  • 近藤幸夫(著)
    出版社:集英社インターナショナル

     2018年7月、中央アルプスの木曽駒ケ岳(2956メートル)で1羽のメスのライチョウが見つかった。中央アルプスのライチョウは半世紀も前に絶滅したはずだった。のちに「飛来メス」と名付けられたこのライチョウと、希代の鳥類学者・中村浩志が出会ったとき、前代未聞のライチョウ復活プロジェクトが動き始めた――。
     自然環境の変化により、これまでライチョウが生息する高山帯にはいなかった天敵が現れる。思いがけないヒナたちの死。緊迫のヘリコプターでの移送……。プロジェクトにかかわる中村を中心とした人間関係にも緊張が走る。
     次々に襲い掛かる難題に、中村は、あきらめることを知らない。不屈の精神と情熱を持ち、研ぎ澄まされた直感力と長年の実績に裏打ちされたアイデアで、より困難な挑戦をしていく。中村が発案したプロジェクトは、数百人がかかわる国を挙げてのプロジェクトになり、力を合わせて、気の遠くなるような地道な努力を積み重ねて行く。
     このプロジェクトによって自身の進む道を変えた著者が描く、渾身(こんしん)のノンフィクションです。

     〈近藤幸夫さんからのメッセージ〉
     本のタイトルの「ライチョウ、翔んだ。」に驚かれた方が多いようです。ライチョウの飛ぶ姿は、羽ばたきと滑空を交互に繰り返し、まさに飛翔といえます。中央アルプスの復活作戦を取材中、険しい岩場を背景に飛翔する神々しい姿に何度も見とれました。本当に幸せな気分になります。ライチョウが飛翔する高山の貴重な自然環境を、何としても次の世代に残したいと願っています。

  • 近藤幸夫
  • 近藤 幸夫(こんどう・ゆきお)

    山岳ジャーナリスト

    1959年生まれ。信州大学農学部を卒業後、86年に朝日新聞社に入社。初任地の富山支局(現富山総局)で山岳取材をスタートする。大阪本社編集局運動部(現スポーツ部)に異動後、南極や北極、ヒマラヤなど海外取材を多数経験。2013年、東京本社編集局スポーツ部から長野総局に異動し、山岳専門記者として活動。山岳遭難や山小屋、ライチョウなど山を巡る話題をテーマに記事を執筆。2022年1月、フリーランスになる。日本山岳会、日本ヒマラヤ協会、日本山岳文化学会に所属。長野市在住。

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