定年延長の閣議決定めぐる訴訟、国は控訴せず 「黒川氏のため」言及

山本逸生 久保田一道
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 東京高検検事長だった黒川弘務氏の定年を延長した2020年の閣議決定をめぐり、神戸学院大の上脇博之(ひろし)教授が関連文書を不開示とした国の決定を取り消すよう求めた訴訟で、決定の一部を取り消した大阪地裁判決が確定した。控訴期限の11日までに上脇氏、国の双方とも控訴しなかった。

 徳地淳裁判長は判決で、国家公務員法定年延長規定を検察にも適用すると解釈を変えたのは「定年間近だった黒川氏のため」と指摘した。

 訴訟の焦点は事実上、解釈変更が黒川氏個人のためだったかを確認することだった。国は該当の文書自体は上脇氏の別の請求に対して開示済みのため、判決が確定しても問題ないと判断した。小泉龍司法相は12日午前の閣議後会見で、「判決を是正するまでの実益は乏しいとの考えから控訴は行わないとした」と説明した。ただ法務省は、黒川氏のためではないという主張は変えないとしている。

 上脇氏は21年、「黒川氏のための解釈変更」の経緯を記した文書を開示するよう同省に求めた。同省は大部分を「作成していない」などと不開示に。裁判で国は、解釈変更の経緯を示す文書は保有するが、「黒川氏のため」のものはないと反論した。

 判決は、黒川氏の定年が迫るなか1カ月で解釈変更の作業を終えた▽閣議決定は定年7日前▽全国の検察庁に周知していない――などの点から、解釈変更は黒川氏のためだと判断。その上で、国が保有する文書は上脇氏の請求文書に該当し、不開示決定は違法と結論づけた。

 検察官の定年は検察庁法で「63歳」(検事総長は65歳)と定められていたが、当時の安倍晋三政権が20年1月、国家公務員法の延長規定を検察官として初めて定年目前の黒川氏に適用した。

 この規定は独立性が求められる「検察官に適用しない」とされてきたが、政府は「解釈を変更した」と説明。法改正を経ずに閣議決定した経緯に、「政権が重用する黒川氏を検事総長にするためだ」などと批判が相次いだ。(山本逸生、久保田一道)

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この記事を書いた人
山本逸生
大阪社会部|裁判担当
専門・関心分野
司法、福祉、労働