頸髄(けいずい)損傷の重傷を負い、首から下がマヒした尾車親方(元大関琴風、本名・中山浩一)。ある日、入院先の病院のベッドでつぶやいた。
「カレーライスが食べたいなあ」
この独り言が耳に入ったのだろう。看護師がこう言った。
「スプーンを持って、カレーライスを残さず食べた人がいますからね。頑張りましょう」
俺は、自分でカレーを食うだけで「すごい」と褒められるような体になってしまったのか――。現実を突きつけられ、慄然(りつぜん)とした。
妻の史枝さんは、手足がかすかに動だけとなった目の前の夫を見つめ、こんな思いがわいた。
「この人の、この日のために…
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- 抜井規泰
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