頑張り実らぬ無精卵

館長・若月元樹
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海はエラい 廃校水族館通信

 展示中のカエルアンコウの水槽内にゼリー状のリボンのようなものが出現していた。

 館内には「あたらしい海の仲間たち」というコーナーがあり、ウミガメやサメの体内から出たレジ袋などのゴミを泳がせている水槽がある。見学者の中には、こちらにもゴミが展示されていると思った人もいるかも知れない。

 実はこの物体はカエルアンコウが産んだ卵である。産卵にはエネルギーを使うようで、産む直前までよく餌を食べていた。アンコウの仲間はエスカと呼ばれる背びれが進化した疑似餌を振って餌となる魚などをおびき寄せる。飼育員によると、産卵前はいつもと違う角度の下向きにエスカを振っていたそうだ。大きなおなかで頑張って振っていたのだろうか。産んでいる最中もエスカを振っていたので、食欲はあったようだ。昔、沖縄で出産中のヤギが赤ちゃんヤギの頭が出ている状態でも草をはんでいた光景を見たことを思い出した。

 写真をよく見ると背中とおなかにコブが見える。これはコブトリジイサンというよく見られる寄生虫だ。最近、おなかが大きくなってコブトリジイサンが目立たなくなっていたが、産卵後はまたハッキリと目立つようになっていた。

 頑張って産んだ卵であるが、無精卵なので孵化(ふか)はしない。(館長・若月元樹)

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