藤井聡太名人(21)=竜王・王位・叡王・王座・棋王・王将・棋聖と合わせ八冠=に豊島将之九段(34)が挑戦している第82期将棋名人戦七番勝負(朝日新聞社、毎日新聞社主催、大和証券グループ協賛)の第3局が9日、東京都大田区の羽田空港第1ターミナルで前日から指し継がれる。対局は2日制で、持ち時間は全棋戦で最長となる各9時間。
昨期、40年ぶりの史上最年少名人となった藤井名人は初防衛を、第77期に名人位を得た豊島挑戦者は5年ぶりの復位を目指すシリーズ。第1、2局で先勝した名人が一気に残り1勝と迫るか、挑戦者が反撃開始とするか。
窓の外は滑走路。離着陸する航空機を眺めながら、という異例の対局環境での勝負となる。
1日目は後手の豊島挑戦者が雁木(がんぎ)を選択。角交換の後、藤井名人が棒銀で攻勢に。45手目を名人が封じた。消費時間は名人3時間7分、挑戦者5時間18分。
立会人は佐藤康光九段(54)。朝日新聞副立会人・新聞解説は佐々木勇気八段(29)。2日目の大盤解説は阿久津主税八段(41)、聞き手は貞升南女流二段(38)が務める。
対局中継と大盤解説中継はYouTube「囲碁将棋TV―朝日新聞社―」で配信。朝日新聞デジタルでは対局の内容や現地の様子をタイムラインで徹底詳報する。
将棋担当・北野新太の目
14年後の棒銀少年
2010年春、日本将棋連盟の育成機関「東海研修会」(名古屋市)に一人の少年が入会した。
まだ将棋を始めて1年程度の小学1年生は、たちまち会員の間で有名になった。理由はふたつある。
ひとつは「負けると大泣きすること」。
もうひとつは「誰も彼の棒銀を止められないこと」。
当時、6学年上の会員で、現在は女流棋士となった脇田菜々子は以前、明かしてくれた。
「当時の先生は棒銀しか指さなくて、東海研修会の全員が『棒銀をやってくる』って分かっているんですけど、勝てなかった。普通ならいくらでも受け止められるんですけど、先生の棒銀は誰にも止められませんでした」
棒銀。初心者が将棋を始めて最初に学ぶ基本的な戦法である。
「ひふみん」こと加藤一二三が代名詞とする得意戦法としても知られるが、現代将棋では指されることは珍しい。角換わりなどの複雑な分岐の中で部分的に選ばれることはあるが、いわゆる初心者が指す単純明快な棒銀を見ることはほぼない。
ところが、本局で出現した。名人戦七番勝負第3局という将棋界最高の舞台で、棒銀は指された。歩の献身と飛車の後方支援を利用して、スイスイと銀を敵陣に進出させたのは14年前の少年だった。
千載一遇の戦機を捉えた名人、藤井聡太は▲1五銀~▲2四銀~▲2三銀不成~▲2三同飛成と軽やかに2筋を突破。局後の豊島将之が「普通に棒銀をされて収拾不能になってしまった」と振り返ったように、勝負の大勢は棒銀によって1日目に決していた。
感想戦終了後、藤井に尋ねた。子供の頃に得意としていた形が名人戦の舞台で出現したことについて。
名人は小さな声を上げて笑い…
- 北野新太
- 文化部|囲碁将棋担当
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- 丸山玄則
- 文化部長代理
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