豪雨頻発で「陸閘を閉鎖せよ」 必要なのは、ルールだけじゃなく…

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荻原千明
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 大雨が列島を襲う頻度が増している。浸水への備えの必要性が高まる中、7月の豪雨では「陸閘(りっこう)」を紙一重の判断で閉め、被害の拡大を防いだ例があった。一方、総務省の調査では全国には運用ルールに不備がある陸閘もあることがわかった。専門家は、ルールの見直しや地域特性に合わせた対応が重要だと指摘する。

陸閘(りっこう)

普段は人が出入りできるよう堤防の一部を切り開いておき、洪水や高潮、津波の際は閉鎖して水の流入を防ぐための施設。国土交通省の調査では、全国の1級、2級河川に約2500基あるとされる。閉鎖方法は板をはめ込む「角落とし」やスライドゲート、スイングゲートなどがある。

 「陸閘を閉めてください」

 7月10日午前5時半ごろ、雨にぬれたかっぱ姿の市職員が消防団の詰め所に駆け込んできた。

 大分県中津市にある渓谷・耶馬渓。山国川の氾濫(はんらん)に備え、普段は通行できるように切り開いている堤防の一部を塞ぐよう求めるものだった。

 詰めていた団員4人がすぐに消防車で約300メートル離れた陸閘へと向かう。片側1車線の市道を遮断するようにスライドゲート(長さ約9メートル)を閉じた。

 そばには国重要文化財の石造アーチ橋・耶馬渓橋。当時の水位は「アーチの中ほどだった」と市消防団第3方面団第3分団の岩波豊治分団長(46)は振り返る。

 水かさはそこから急激に増した。川からあふれた水が路面を覆い、高さ1・42メートルのゲート上端へと迫る。越えるかもしれない――。消防団は住民に車の移動や避難を呼びかけた。

 あと10センチほどになった同8時15分ごろ、上昇は止まったという。耶馬渓橋は濁流にのまれて欄干が壊れた一方、一帯の住宅が浸水することはなかった。近くの白岩薫さん(62)は「(陸閘の)お陰で助かったと思う」と話す。

 国土交通省によると、河川の陸閘は全国に約2500基あるとされる。ただ、「失敗」も相次ぐ。2018年の西日本豪雨では岡山県で約15カ所が適切に閉鎖できなかったという。

 こうした例を受け、総務省は昨年~今年7月、国や都道府県が管理する河川の陸閘について管理・運用を調査した。結果報告書によると、調査対象の110基のうち17基(15%)で運用ルールが作られず、ルールはあっても操作のタイミングなどの基準を作成していないものが他に11基(10%)あったという。

 総務相は国交相に運用ルールの明確化などを勧告。国交省は河川を管理する地方整備局や都道府県に確認や対応を促す通知を出した。

 国が対応に乗り出したのは…

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