(社説)日比「準同盟」 地域安定へ外交に力を

社説

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 ともに米国と同盟関係にあり、中国の強引な海洋進出に直面している日本とフィリピンの安保協力が「準同盟」級に格上げされた。

 米国を加えた3カ国、さらに豪州を加えた4カ国の連携も進む。中国に対する抑止力の強化が狙いだが、軍事に軸足を置きすぎれば、かえって緊張を高めかねない。外交にも最大限の力を注ぎ、地域の安定につなげねばならない。

 日比両国の外務・防衛担当閣僚会合(2+2)がマニラで開かれ、自衛隊とフィリピン軍が共同訓練などで行き来しやすくする「円滑化協定」に署名した。日本にとっては、豪州、英国に続く3カ国目で、「準同盟」級という位置づけが明確になった。

 4閣僚は南シナ海東シナ海での「力または威圧による一方的な現状変更の試み」への強い反対を表明。共同発表では特に、フィリピンが実効支配するアユンギン礁への補給活動に対する妨害を中国がエスカレートさせていることを取り上げ、中国に対して、名指しで「深刻な懸念」を示した。

 台湾の北と南に位置する両国にとって、中国が台湾への威圧を強めていることも懸念材料だ。4閣僚が「台湾海峡の平和と安定の重要性」を再確認し、両岸問題の平和的解決を求めたのはもっともだ。

 円滑化協定は、岸田首相とフィリピンのマルコス大統領が昨年11月の首脳会談で交渉入りに合意してから8カ月で妥結した。中国をにらみ、安保協力の強化を急ぎたい両国の思惑は明らかだ。

 日米比、日米豪比といった多国間協力も進む中、自衛隊の遠洋での活動が活発化している。今年4月には、南シナ海で海上自衛隊と米豪比海軍による共同訓練が実施された。今月には、フィリピン海で日米の海空共同訓練もあった。日本がこれまでオブザーバーだった米比の定例合同軍事演習「バリカタン」に、円滑化協定が発効すれば本格参加することも視野に入る。

 力による現状変更を許さない取り組みは重要だが、専守防衛の自衛隊が南シナ海情勢にどこまで関与できるのか、慎重な検討が必要だ。米国主導の対中戦略にのみ込まれず、中国との相互理解や信頼醸成にも努める必要がある。

 フィリピンは今月、南シナ海に関する中国との外務次官協議を開き、話し合いを続けることでは合意した。緊張緩和がたやすく実現しないとしても、これ以上の衝突の激化を防ぐための意思疎通は欠かせない。日本もまた、あらゆるレベルで中国との対話に取り組むべきだ。

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