(社説)英政権交代 分断の政治 立て直せ

社説

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 英国下院選で野党・労働党が地滑り的な勝利を収め、14年ぶりの政権交代を果たした。新政権は、欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)がもたらした国内の分断を修復し、国際社会での信頼を取り戻す重い責任を負う。

 労働党としては与党・保守党の3倍以上の議席を獲得する歴史的勝利となったが、保守党の「一人負け」というのが実態だろう。

 ブレグジットの是非を問うた2016年の国民投票いらい保守党の首相は5人。離脱実現に邁進(まいしん)したジョンソン氏は新型コロナ下で再三パーティーを開いた疑惑で退陣。後任のトラス氏は財源の裏付けに乏しい大減税を打ち出して経済を混乱させ失脚した。

 この間、EUとの関係は冷え込み、保守党内の穏健派は力をそがれた。ブレグジット後の人手不足がインフレに拍車をかけ、財源不足で公共サービスは劣化した。

 ブレグジット推進派が振りまいたバラ色の未来像が急速に色あせる一方で、苦境への目配りと地道な対応を怠った保守党政権に、国民が愛想を尽かしたのは当然だ。

 かたや労働党のスターマー党首は、4年前の党首選で掲げた大学無償化や郵便、水道の国有化など左派色の強い政策を封印。経済成長重視を掲げ、中道・穏健路線にカジを切った戦略が奏功した。

 新首相に就任したスターマー氏には、重い課題が待ち受ける。

 英国が国際社会で存在感を発揮してきたのは、国連安全保障理事会や主要7カ国(G7)など多国間の枠組みで建設的な役割を果たしてきた外交力のたまものだ。

 欧州で「自国第一」を唱える右派勢力が伸長し、秋の米大統領選の行方も見通せない中、民主主義や人権重視といった価値観の「守り手」としての英国の責任はますます重くなるだろう。

 その意味でスターマー氏がEUとの関係修復やウクライナ支援の継続を約束したのは賢明だ。安定した国際秩序を築くパートナーとして日本も外交面で連携を深めたい。

 今回の選挙では、ブレグジットを推進したファラージ氏が率い、移民排斥を掲げた改革党に票が流れたことも保守党惨敗の一因とみられる。

 今後、労働党政権が国民の失望を招けば、ポピュリストや右派の勢力がその受け皿になる懸念は残る。

 スターマー氏は勝利演説で「混乱に終止符を打つ。国を立て直す」と述べた。その言葉通り、安易な問題解決に走らない、地に足のついた政権運営を求める。

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