(社説)海自接待疑惑 癒着の構図 徹底解明を

社説

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 「防衛力の抜本的強化」の旗の下、政府が大幅な予算増と関連産業へのテコ入れを強めるなか、海上自衛隊の潜水艦の検査・修理をめぐり、隊員と業界の「癒着の構図」が明らかになった。繰り返される不正の背景を含め、徹底した実態解明が不可欠だ。

 潜水艦の建造メーカーである川崎重工業が、下請け企業との架空取引で捻出した裏金を使い、多数の乗組員らに物品や商品券、飲食接待を提供していた疑いがもたれている。大阪国税局が十数億円の裏金づくりを把握し、重加算税を含む追徴税額は少なくとも約6億円に上るという。

 潜水艦は就役後、毎年の年次検査や3年に1度の定期検査を受ける。乗組員が立ち会いのため、神戸市の川重の宿泊施設に滞在する間に利益供与があったとされる。乗組員側が希望する物品を伝えていたというのだから、あきれる。公私のけじめを欠き、公務員倫理にもとることは言うまでもない。

 検査の発注額は年間百数十億円。防衛省は裏金づくりのための過大請求は、現時点では確認されていないというが、裏金をつくれる利幅がもともと確保されていたのなら、契約価格の決め方が適正だったのか、コスト意識に甘さはなかったか、疑われても仕方あるまい。

 一昨年末の安保3文書の改定で、防衛費と関連予算の「倍増」が決まり、受注の増えた防衛産業の大手は活況を呈しているという。昨年には、防衛産業への支援を強化する法律もできた。それだけに、防衛省・自衛隊と防衛産業との関係には、より一層の透明性が求められるはずだ。

 川重から通報を受けた防衛省は4月、海自に調査委員会を設置し、自衛隊員倫理法違反の疑いで調べを始めた。さらに、事態を重く見た木原稔防衛相はきのう、「特別防衛監察」の実施を指示した。

 川重の裏金づくりは約20年前から続いている疑いがある。その狙いは何だったのか。他の不祥事の反省がなぜ生かされなかったのか。利益供与の全容とともに、調べを尽くしてもらいたい。

 同時に、川重だけでなく、防衛産業との関係全般を総点検し、不正の根絶につなげる機会とすべきだ。

 防衛費増の財源の一部は、法人税所得税たばこ税の3税の増税で賄うことになっている。ただ、世論の反発を恐れる政府・与党は、具体的な実施時期などを決められずにいる。負担増への国民の理解を得たいというなら、癒着を断ち切る姿勢を明確にしなければならない。

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