「米国までもう少し」なのに… 命かける移民を阻むメキシコの強硬策

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メキシコ市=軽部理人
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 ルイス・ビジャビセンシオさん(39)は疲れ果てていた。

 「ここに来るまでに3カ月かかった。途中2回、強盗に襲われた。所持金はゼロだ。これからどうすれば良いのか」

 5月中旬、メキシコの首都メキシコ市。独立記念塔がある中心部のレフォルマ地区からほど近い路上に、約200人の移民が集まっていた。市が提供する簡易宿泊所が毎日午後4時に開くのを待っている。中南米の出身者がほとんどで、特に小さな子連れの家庭が多い。治安悪化や強権的な政治体制で身に危険が迫るなどして、母国を離れざるを得ないケースが多い。

 南米エクアドルから来たルイスさんは、同国の首都キトのカトリック教会で働いていた。平穏な暮らしが暗転したのは、2020年ごろだ。

教会に金を要求する犯罪組織、拒否した職員殺害

 バナナやコーヒーの産地として知られるエクアドルは、治安の良さが特徴だった。だが近年、西部の港湾都市グアヤキルが欧米に向かう麻薬ルートの中継地になり、勢力が強いコロンビアやメキシコの麻薬組織が国内全土に流入。それぞれの麻薬組織はエクアドルの犯罪組織と手を結び、組織間による国内での勢力争いが激化した。

 勢力伸長のため、市民への強盗や恐喝、身代金目的誘拐はもちろんのこと、殺人件数も急増。23年は7592件となり、人口10万人あたりの殺人発生率は5年前の約7倍の40件超になった。その多くが、麻薬・犯罪組織による事件とみられる。

 昨年8月には、犯罪組織と政府の癒着を度々告発していた大統領選候補者のフェルナンド・ビジャビセンシオ氏が、選挙集会後に暗殺された。ルイスさんの遠縁だった。

 ルイスさんの教会には、地元…

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この記事を書いた人
軽部理人
サンパウロ支局長|中南米担当
専門・関心分野
中南米の全分野、米国政治や外交