親の熱意とは裏腹に、負の影響を及ぼしかねない「教育虐待」を避けるには、保護者はどうすればいいのか。小児科医として数万人の診療経験があり、多くの親子の悩みに耳を傾けてきた新百合ケ丘総合病院(川崎市)の高橋孝雄・発達神経学センター長に聞いた。
――近年、中学受験熱が高まるなか、教育虐待の増加を懸念する声があります。
教育虐待に当たると感じる事例は以前からあり、近年、その頻度が高まってきた印象はあります。増えたのか顕在化したのかはわかりませんが、目につくようになったとは言えます。
――教育虐待とみられる事例に共通点はありますか。
私が拝見するのは、子どもに何らかの症状が出て受診するほど深刻化したケースであり、平均像とはずれている��能性があります。それを前提に言えば、保護者が子を愛するあまりの過干渉という共通点があります。
小さい頃から着る物、食べる物の全てに気を配り、勉強時間を管理する。子は無自覚のまま追い詰められ、思春期が始まる小学5~6年生ぐらいで拒食や無気力などの症状が表れて来院するケースが多いと感じます。不登校や、暴れるなどの問題行動が受診につながるケースも多くみられます。
――保護者が過干渉する理由…
- 高浜行人
- 東京社会部|教育班キャップ
学校教育、受験、教育行政
- 【視点】
教育社会学の研究の中には、親の人間関係(ネットワーク)の性質と子育ての関係を分析した結果がある。子どもの成績等を他の子どもと比較したり、行動を押し付けてくるような負のネットワークが、配偶者や親族、友人知人に多い場合に、親は子どもの成績などの達成を気にするようになり、子育て不安は高まり、親自身の幸福感は低下する(荒牧草平『子育て世代のパーソナル・ネットワークー孤立・競争・共生』勁草書房など)。 教育虐待の問題を考える際に、「親の心得」といった個人的な要因だけでなく、どのような環境、つまり上記のような人間関係や地域特性などに親が巻き込まれているかを検討する必要があろう。 中学受験や塾通いが過熱する大都市、特に首都圏は、負の要因が揃っているおそれは強い。親からの課金を狙う教育産業の戦略もかかわっているだろう。 それらに巻き込まれて、かけがえのない子どもの人生や子どもとの関係を損なってしまっては元も子もない。人間関係や地域の環境から逃れることは難しい場合も多いかもしれないが、保護者自身や地域行政がオルタナティブを考える際の重要なポイントの1つになると考える。
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