WEDDING / DRESS

「完璧な1枚などない」──120着のウエディングドレスを試着した花嫁が見つけた、本当に自分らしいブライダルスタイル

20年以上ファッション関係の仕事をし、自分のスタイルは知り尽くしていると思っていたキャサリン・オーメロッド、40歳。だが、そんな彼女が再婚と2回目の結婚式を目前にして、自分に似合うウエディングドレスがわからなくなってしまったという。ブライダルファッションはやはり通常のファッションのようにはいかないのか。ロンドンとニューヨークのブティックを巡り、通算100着以上ものドレスを試着することで得た気づきを軽快に綴る。
Photos: Courtesy of Katherine Ormerod

私が結婚式を挙げるのは、これが初めてではない。最初は26歳のとき、トスカーナで挙げた。ドレスは2着目に試着したジェニー パッカムJENNY PACKHAM)のティアードドレス。切りっぱなしのシフォン生地、ストラップレスのネックライン、フィッシュテールのスカートが特徴で、当時の私にはぴったりの1枚だった。だが残念なことに、結婚生活はウエディングドレスほど輝かしいものではなかった。

29歳のとき、私は離婚し、二度とバージンロードを歩くまいと心に誓った。しかし、30代に私が学んだことがあるとすれば、それは「絶対」なんてないということだ。なので、長年付き合っていたボーイフレンドであり、私の2人の息子の父親である人にクリスマスの日にプロポーズされたときは、驚きのあまり防災用のアルミブランケットを必要とするほど体が震えたが、返事に迷いはなかった。

二つ返事でプロポーズを受けるくらい結婚に対して迷いはなかったが、式では一体何を着ればいいのかわからず、大いに戸惑った。私は過去20年間、ファッション業界ないし隣接する業界で仕事をしてきたし、自分のスタイルを発信しているインスタグラムのフォロワーは今や8万人近くいる。そんな私が花嫁衣裳で思い悩んでいるのを意外に思う人もいるだろう。自分のことはよくわかっているし、自分のスタイルやテイストもよく知っている。では、この漠然とした不安はなんなのか?

実際のところ、どんなにブレない人でも、ウエディングドレスというものには、どこか自分の感覚を完全に鈍らせるところがある。おとぎ話に出てきそうなウエディングドレスは、自分の真のスタイルをとらえると同時に、最高の自分を演出してくれる1枚であるべき。そう考えると何を選んでいいのかわからなくなる。何百着というドレスを着てきた私でもだ。

お気に入りのひとつ、マルカリアンの「イドラ」ドレス。

Photo: Courtesy of Katherine Ormerod

マルカリアンのドラマティックなデザインにも惹かれた。

Photo: Courtesy of Katherine Ormerod

まず、私はさまざまな側面を持つ40歳の大人で、「私」という人間を形成する複雑なキャラクターをすべてとらえてくれる1着なんて本当に見つかるのかと懸念していた。理想のドレスをどこからともなく出せるマジシャンにでもお願いしない限り、私の、言ってみれば矛盾したスタイルを体現するドレスを見つけることは、不可能に近いように思えた。そこで、私は自分のブライダルスタイルを発見する旅に出ることにした。100着のウエディングドレスを試着し、その過程を記録することで。自分が思っている自分に似合うものは一旦忘れ、オープンで柔軟な姿勢で企画に挑んだ。お手頃価格からハイエンドまで、伝統的なデザインからエッジーなものまで、すべてが候補。ドレス探しの旅は最終的に海を越え、国境を越え、その道中では世界で最もリスペクトされているブライダルデザイナーたちの力を借りることになった。

もちろん、ヴィヴィアン ウエストウッドを試着せずにはいられなかった。

Photo: Courtesy of Katherine Ormerod

「結婚式は、自分のスタイルで冒険する機会ではありません」。ヴィヴィアン ウエストウッド(VIVIENNE WESTWOOD)でスタイリスト兼ブライダル・エキスパートを務めるロージー・ボイデル=ワイルズからもらったこのアドバイスは、この5カ月間ずっと私の耳に残っている。

彼女が言っていることは、決して間違ってはいない。それでも、当初の私はウエディングという文脈において自分のスタイルがどういったものなのか、うまく言い表せなかった。普段の私は、前腕のタトゥーや黒いぱっつんヘア、紅く塗ったロングネイルをコントラストするドーエン(DÔEN)やシーニューヨーク(SEA NY)といったブランドのフェミニンなワンピースを好んで着ている。ナイトアウトともなれば服装はレベルアップし、ネイキッドドレッシングやサンローランSAINT LAURENT)の「ル・スモーキング」タキシードルックをノーブラで決めたりする。確かに自分は壁の花でもミニマリストでもないが、特定のスタイルに当てはまるとも思ったことがない。周りに言わせれば「ガーリー」なのかもしれないが、それにしては甘さが足りない。もっと奔放で、型にはまらない魅力があるスタイルとでも言おうか。だが、そんなテイストを売りにしているブライダルデザイナーを私は知��ない。

いざ、ニューヨークとロンドンをまたぐウエディングドレス探しの旅へ

オナーNYCでのフィッティングの様子。

Photo: Courtesy of Katherine Ormerod

私が最初に訪れたのは、ニューヨークにあるオナーNYC(HONOR NYC)のブティック。何週間も前からインスタグラムでマークしていて、ファッションウィークに参加するついでに足を運んだ。ホワイト系のドレスを何か1着選べばいいや、と軽い気持ちで行ったものの、一瞬にしていかに自分の考えが甘かったかを思い知った。私を待っていたのは、完全なるオーダーメイドのウエディングドレスのためのフィッティング体験だった。そして、生半可な気持ちで挑むべきではないともすぐに気づいた。

式はこの秋、カリフォルニアの砂漠にある邸宅で執り行う予定だ。息を呑むような美しさの建築物で、地味な挙式にするという選択肢はとうにない。やるからには何もかも思いっきり派手にやるしかない。もちろん、ドレス含めて。そう思った私がここで見つけたお気に入りの1着は、シアーなヌードカラーのティアードストラップレスドレスだった。それも最初の結婚のときに纏ったウエディングドレスに酷似していた。15年経ったにもかかわらず、好きなタイプは変わらないようだ。

ハーフペニー・ロンドンのブティックにて。

Photo: Courtesy of Katherine Ormerod

ロンドンに戻って、新鮮な気持ちでドレス探しをしたかった私は、ロンドンを代表するブライダルデザイナーとのアポイントメントをいくつか取った。

ハーフペニー・ロンドン(HALFPENNY LONDON)のブルームズベリーのアトリエでは、担当してくれたデザイナーのケイトに、周りの意見などといった雑音をかき消して、着たときの感じを重視するようにと言われた。ドレスの動きはどうか?サポート感はあるか?息苦しくないか?あらゆる角度から見てみたか?彼女のドレス選びに対する自信は私にまで伝染して、気分を高めてくれた。そうこうして心奪われたのが、「シェリル」というシャンパンゴールドのシルクのホルターネックガウンだ。自分の肌にはアイボリーではなく、もっと暖かみのある色が合うということもわかった。

サッシ ホルフォードのガウンに身を包んで。

Photo: Courtesy of Katherine Ormerod

フルハムロードにブティックを構えるサッシ ホルフォード(SASSI HOLFORD)のもとも訪ねた。サッシから直接聞いたことだが、彼女は私と同じくらいの年齢の花嫁や、私のように1人でフィッティングに来る女性のドレス選びを手伝うのが好きだという。確かに必要以上に大人数で行くと、スムーズに行かないことがある。

開始早々に、私はかなり気に入ったドレスを見つけたが、結構パンチが効いたデザインだった。そして3人もの友人に唖然とされ、「後悔するからやめた方がいい」と言われると、自分のセンスを疑い始めた。誰もが 「花嫁はこうあるべきだ」というイメージを持っていて、それは必然的に自分自身がその立場だったら選ぶであろうものに影響されている。何件かのアポには友人同伴で行ったが、1人のときの方がより自分のセンスに忠実でいられた。結局、私はほかの人の意見など求めていないのだと知った。

ザ・フォールで見つけたサンクのガウン。

Photo: Courtesy of Katherine Ormerod

ショーディッチにあるザ・オウン・スタジオにて。

Photo: Courtesy of Katherine Ormerod

ザ・オウン・スタジオではブライダルスーツも試着。

Photo: Courtesy of Katherine Ormerod

トレンド的にはドロップウエストが多く、ほのかなピンク色のデザインがあちこちに見られた。ブライダルスタジオもパッと入って試着できる、よりリラックスした雰囲気のところが増えていて、ブティックのあり方も根本から大きく変化していると感じた。その構えない姿勢は服にも表れていて、私が訪れたショーディッチにあるザ・オウン・スタジオ(THE OWN STUDIO)とザ・フォール(THE FALL)にも、飾らないデザインのピースが並んでいた。共同設立者であるジェス・ケイがディレクションするザ・オウン・スタジオでは、バルーンスカートのドレスを試着しオードリー・ヘプバーン気分を味わい、ザ・フォールでは、ボッティチェッリの絵画に出てきそうなサンク(CINQ)の「クレア」ドレスをトライした。

避けて通れない「体型問題」

絶対外せなかったというブライダルブティック、クラインフェルドにて。

Photo: Courtesy of Katherine Ormerod

リアリティ番組『セイ・イエス・トゥ・ザ・ドレス』の舞台でもあるクラインフェルドにはさまざまなテイストのドレスが揃う。

Photo: Courtesy of Katherine Ormerod

ウエディングドレス探しを満喫するには、世界でもトップレベルの知名度を誇る2つのストアを訪れないわけにはいかなかった。ひとつは5,600着ものドレスを揃え、リアリティ番組『セイ・イエス・トゥ・ザ・ドレス』(2007年〜)の舞台でもある、ニューヨークのブライダルブティックのクラインフェルド(KLEINFELD)。もうひとつはロンドンのボンドストリートに店舗を構えるバルセロナ発のプロノビアスPRONOVIAS)だ。

ドラマティックなトレーンが目を引くプロノビアスの1枚。

Photo: Courtesy of Katherine Ormerod

ここで、オープンな姿勢でいることについて少し触れたい。私がエディター時代に学んだことのひとつに、「自分の心を惹きつけるアイテムは、思いもよらないところにあったりする」がある。ファッションにおいても、お高くとまることは実はクールでもなんでもない。いかなる状況でもブランドにとらわれず、自分の好き嫌いをしっかり見極める力を身につけることこそが、自分らしいスタイルへの本当の近道なのだ。それを心得ていたからか、プロノビアスでは値段がほかの候補の3分の1くらいのヴィンテージのスクエアネックドレスを選んでいた。クラインフェルドではビーズやパールなど、細かいパーツが取れてしまっているドレスも何枚かあったが、特に気に留めず、プニナ トルナイ(PNINA TORNAI)の編み上げコルセット付きのピースというお気に入りの1着に出会えた。

ほんのりとしたピンクが美しいガリア ラハヴの1着。

Photo: Courtesy of Katherine Ormerod

ブライダルルックのフィッティングといえば、人前での試着だ。それに体型のことが絡んでくるのは間違いない。私自身はスリムな方で、幸いにも服のサイズに困ったことはない。しかし、そんな私でもファスナーが閉まらなかったり、体の肉が変につままれたりと、決して魅力的に映らなかったウエディングドレスが何着もあった。いくつかのフィッティングではダイエットの話も持ち上がり不愉快な思いをしたし、砂時計型の体型をやけに強調する風潮も、ストレートなI型体型の私にとっては最初はキツかった。

しかし、試着数が100着を超える頃には、ストラップレスのネックラインに脇肉が乗っかっても、お腹のボタンが留まらなくても、ただ肩をすくめた。ネガティブな考えにうまく対処する方法は、慣れしかない。今回のことを経て、改めて自分の体をありのままに受け入れられるようになった気がする。生まれて40年。その間、妊娠も3回経験した。いい加減、鏡に映る自分を責めるのはやめにするときが来たのだ。結婚式の前にそう気づけて、本当によかったと思っている。

「出会いは思いもよらないところにある」

ウエディングドレスを購入した後に心奪われてしまったダニエル フランケルの「ロザリー」ドレス。

Photo: Courtesy of Katherine Ormerod

この体験に教訓めいたものがあるとすれば、やはり「出会いは思いもよらないところにある」ということだ。運命の1着は、この原稿を書いていなければ決して足を運ぶことはなかったであろう店で見つけた。どういうドレスかはまだあまり詳しく言いたくないが、フィッティングのために訪れる前までは、そのブランドとは無縁で、自分とは結びつけていなかった。でもファスナーが上がった瞬間、ピンときた。パワフルで、セクシーで、ちょっと反抗的。これがまさに私だと。

それ以来、目移りしていないわけではない。内金を払ったら、もうほかのドレスは試着しない方が断然いい。今回は記事の企画も兼ねていたので、私はドレスを決めた後もいろいろ試着し続けたが、案の定、何週間か後に再びニューヨークを訪れたときに出向いたダニエル フランケルDANIELLE FRANKEL)のブティックで、「ロザリー」というシフォンドレスに出会い、不意打ちを食らった。率直に言って、まだ頭から離れない。でも、私が選んだドレスは「ロザリー」よりも私のいろんな側面を見せてくれると自分に言い聞かせ、自分を慰めている。

リキソーではガウン以外のピースにも挑戦。

Photo: Courtesy of Katherine Ormerod

ウィッスルズのブライダルラインも試着。

Photo: Courtesy of Katherine Ormerod

ウエディングドレスは100着も試着する必要はない、と言いたいところだが、運命の1着に出会ったときにはすでに97着ものドレスを試着していた私が言うと、説得力がない。ただ確かのは、何十件もの来店予約を取って管理するのは骨が折れるし、お財布に優しくない。フィッティング料が発生す��場合もあるし、子どもがいる人はベビシッターなどを雇わなければいけない。もちろん交通費もそれなりにかかる。ドレス探しそのものが相当な出費になるのだ。

もしまた一からやり直すとしたら、1週間仕事を休んで、すべてのブティックを一気に駆け足で回るだろう。もっとも、それはそれでかなり綿密な計画を立てる必要があるが。中には空きがなく、予約を受けられないというアトリエもあった。『VOGUE』の取材という名目でもダメで、いかに供給が需要に追いついていないのかがわかる。

値段に関しては、下は500ポンドから上は15,000ポンドまで、あらゆる価格帯のドレスを試着した。夢を見ることは大切だと思う。私も長年のキャリアを通して、自分ではとても手が届かないドレスを何枚も着させてもらってきたので、予算オーバーのブランドを端から避けるようにとは言わない。ただ、試着する場合は、あくまでもレアなヴィンテージピースや博物館の貴重な展示品をちょっとだけ着させてもらえる機会だと冷静に考えるように。

「ドレスではなく、あなた自身が主役であることを忘れずに」

120着の中には現代ブライダルの女王、セシリー・バンセンのデザインも。

Photo: Courtesy of Katherine Ormerod

いざ自分の気持ちに耳を傾けてみると、私はすぐに、どこかドラマ性がある1着を求めていること、ウエスト周りがタイトなのは許容できるけれど、ハイネックやボリュームがあり過ぎるスカートは無理だと知った。ブラウンズブライド(BROWNS BRIDE)で試着したエリー サーブELIE SAAB)のグレース・ケリー風ガウンは今でも忘れられないが、身動きが取れないがために控室から出られず、式会場に辿り着けない自分がやすやすと想像できたので、候補から外した。デンマーク出身のデザイナー、セシリー・バンセンCECILIE BAHNSEN)もこうアドバイスしてくれた。「ドレスではなく、あなた自身が主役であることを忘れなように」

セルフ・ポートレートのジャケットとチュールスカートといったセットアップスタイルもチェック。

Photo: Courtesy of Katherine Ormerod

アニー・イビサではミニ丈にトライ。

Photo: Courtesy of Katherine Ormerod

最後にひとつだけ。ウエディングドレス探しは、パートナー探しに似ていると個人的には思う。私は「運命の人」というものを、あまり信じていない。私は今回、120着ものドレスを試着したが、結婚式で実際に纏いたいものは6着あった。これはおそらく、自分が生涯に出会う、相性がいいと思える男性の人数とほぼ同じような気がする。何もかもが自分に完璧に合う1人がいないように、ウエディングドレスもまた、自分にぴったりな1着があるわけではない。条件にマッチした、いいと思うものに何着か出会うのは当然なことだし、たった1枚に完璧を求めるのをやめると、ドレス探しはとても感慨深い、楽しい体験になる。

これほどたくさんのドレスを試着して、かえって混乱しなかったかと聞かれることがある。そう聞かれるのも無理もない。でも実際は、これまで以上に、自分が求めているものがはっきりとした気がする。あとは、10月の式を待つのみ。それまでほかのドレスに目移りしないことを祈るばかりだ。

Text: Katherine Ormerod Adaptation: Anzu Kawano
From VOGUE.CO.UK