俵万智×AI短歌 歌人と拓く言葉

ふいに 愛あふれ なんでもない

短歌を生成できるAIに、俵万智さんの歌集をすべて学習させた「万智さんAI」を作りました。俵さんと一緒に短歌とAIの世界をのぞいてみませんか。後半では、俵さんの上の句からAIがどのような下の句を作るのか、体験できます。

  • ナビゲーター/短歌AI開発者

    浦川通

    朝日新聞社メディア研究開発センター員。自然言語処理の研究に従事。第64回短歌研究新人賞最終選考通過
  • 俵万智さん

    歌人。第1歌集「サラダ記念日」が285万部のベストセラー。短歌の魅力を伝え、すそ野を広げた功績で2021年度に朝日賞受賞
  • 俵匠見さん

    大学生。全国高校生短歌オンライン甲子園準優勝。論文「現代短歌の字余りとリズムについての考察」を執筆。万智さんの息子

俵万智、短歌AIとの出会い

俵万智さん

はじめまして。短歌を生成できる「短歌AI」を開発したそうですね。いったいどんな歌を作るのか、見てみたいと思って来ました。いちから短歌を作るんですか?

浦川通

入力された言葉やフレーズに続けて短歌を生成できます。インターネット百科事典「ウィキペディア」を使い、五・七・五・七・七という短歌のリズムを学習させました。

俵万智さん

なるほど。ちょうど締め切りがあって、推敲中の歌の上の句を試しに入れてみてもいいですか?

浦川通

さっそく使ってみましょう。

In [1]: generate('実感の>ないこと歌に>なりづらし>',randomness=0.6)

俵万智さん

すんごいよかったらやだねえ。

Out [1]:

'実感の>ないこと歌に>なりづらし>何の確信も>持てないうちに'

'実感の>ないこと歌に>なりづらし>感じるようにも>なったりもした'

'実感の>ないこと歌に>なりづらし>聞かせるつもりも>なかったろうに'

'実感の>ないこと歌に>なりづらし> われに歌ありと> うしろ姿に'

'実感の>ないこと歌に>なりづらし>何より楽しく>ない演奏に'

'実感の>ないこと歌に>なりづらし>何より音痴なの>で舞台に立て'

'実感の>ないこと歌に>なりづらし>何より音痴なの>で舞台に立て'

'実感の>ないこと歌に>なりづらし>感じるようにも>なったりもした'

'実感の>ないこと歌に>なりづらし>聞かせるつもりも>なかったろうに'

'実感の>ないこと歌に>なりづらし> われに歌ありと> うしろ姿に'

'実感の>ないこと歌に>なりづらし>何より楽しく>ない演奏に'

'実感の>ないこと歌に>なりづらし>何より音痴なの>で舞台に立て'

俵匠見さん

おもしろいな。それっぽいこと言ってる(笑)

俵万智さん

ほうほう。そばにあったら気分転換になりそう。これも試してみようかな。

In [2]: generate(''二週間>前に赤本>注文す>',randomness=0.6)

浦川通

いかがでしょう。

Out [2]:

'二週間>前に赤本>注文す>さきに青本>注文すすむ'

'二週間>前に赤本>注文す>そのあと学習>ノートなどを'

'二週間>前に赤本>注文す>だがまだ来ない>注文品は'

'二週間>前に赤本>注文す>さきに白本>注文すすむ'

'二週間>前に赤本>注文す>だが発送が>遅れたりなど'

'二週間>前に赤本>注文す>ませば二巻が>先達する'

'二週間>前に赤本>注文す>たが昨日なく>なったと電話'

'二週間>前に赤本>注文す>そのあと学習>ノートなどを'

'二週間>前に赤本>注文す>だがまだ来ない>注文品は'

'二週間>前に赤本>注文す>さきに白本>注文すすむ'

'二週間>前に赤本>注文す>だが発送が>遅れたりなど'

'二週間>前に赤本>注文す>ませば二巻が>先達する'

俵万智さん、匠見さん

おかしいね(笑)

実際の様子はこちら

そのままの われ 意識 手紙には
愛あふれたり
その愛は
消印の日の
そのときの愛
歌に バンザイの姿勢で眠りいる吾子よ
そうだバンザイ生まれてバンザイ
赤本

「万智さんAI」との出会い

浦川通

俵さんの歌集に収録されている作品を学習した「万智さんAI」も用意しました。

俵万智さん

さっきと同じ「赤本を注文す」を入れてみてもいいですか。

In [3]: generate(''二週間>前に赤本>注文す>',randomness=0.6)

浦川通

さきほどとの違いを見てみましょう。

Out [3]:

'二週間>前に赤本>注文す>この本のこと>きっと息子は'

'二週間>前に赤本>注文す>注文したら>三冊目くる'

'二週間>前に赤本>注文す>父は病気の>ことを書かねば'

'二週間>前に赤本>注文す>うろ覚えの>注文書である'

'二週間>前に赤本>注文す>うろ覚えの>注文書である'

'二週間>前に赤本>注文す>注文したら>三冊目くる'

'二週間>前に赤本>注文す>この本のこと>きっと息子は'

'二週間>前に赤本>注文す>注文したら>三冊目くる'

'二週間>前に赤本>注文す>父は病気の>ことを書かねば'

'二週間>前に赤本>注文す>うろ覚えの>注文書である'

俵万智さん、匠見さん

おおおお!

俵匠見さん

家族を出してきたか!

俵万智さん

さっきのよりずっと私っぽい。なんやろ、文体を学ばれてるのかな。

浦川通

実際の短歌を学習したほうが、短歌独特の単語の選び方や並びを上手に学習できているようです。俵さんの歌集から、「語の使い方」を学んでいると言えるでしょう。

ほしい 制服は未来のサイズ入学の
どの子もどの子も未来着ている
いる 元気 淋しさ

別の上の句では…「やられたな」

俵万智さん

別の上の句でもやってみてもいいですか。

In [4]: generate(''一人称>あまり使わぬ>日本語に>',randomness=0.6)

浦川通

いくつか俵さんっぽいものもでているような……いかがでしょうか。

Out [4]:

'一人称>あまり使わぬ>日本語に>君の心を>隠しているか'

'一人称>あまり使わぬ>日本語に>愛着がわく>三分前に'

'一人称>あまり使わぬ>日本語に>疲れてふいに>感じる電話'

'一人称>あまり使わぬ>日本語に>疲れてふいに>感じる電話'

'一人称>あまり使わぬ>日本語に>疲れてふいに>感じる電話'

'一人称>あまり使わぬ>日本語に>愛着がわく>三分前に'

'一人称>あまり使わぬ>日本語に>君の心を>隠しているか'

'一人称>あまり使わぬ>日本語に>愛着がわく>三分前に'

'一人称>あまり使わぬ>日本語に>疲れてふいに>感じる電話'

俵万智さん

え、これうまくない?「君の心を隠しているか」って。

俵匠見さん

うん、ちょっといいぞこれは。

俵万智さん

いいよね、メモしよう。一人称を使わないというのは、心を隠していることかもしれないなっていうのがね。ちょっとこれはやられたな。勉強するのがウィキの場合と私の歌集の場合で、出てくるものがこんなに違うんですね。

【動画後編はこちら】

「万智さんAI」を体験する俵万智さんと匠見さん。動画では、「赤本」「一人称」の上の句をAIの設定を変えて試してみたり、本編では紹介できなかった上の句を入れたりする様子を紹介しています。

眠り なんでもない
会話なんでも
ない笑顔
なんでもないから
ふるさとが好き
返事する あまり なんでも チョコレート 淋しさ

AI短歌を体験してみよう

俵万智さんの既存の作品の上の句から、AIが続きの下の句を生成します。以下から上の句を選択してください。

上の句を選択してください
  • 「この味が>いいね」と君が>言ったから>
  • 「寒いね」と>話しかければ>「寒いね」と>
  • 四万十(しまんと)に>光の粒を>まきながら>
  • 男では>なくて大人の>返事する>
  • バンザイの>姿勢で眠り>いる吾子よ>
  • 「オレが今>マリオなんだよ」>島に来て>
  • 制服は>未来のサイズ>入学の>

ほぐせば今日は>つるりと世界

我を愛せよ>二本のパンで

いいねの道を>呼びこまれてる

おまえの手紙を>摘む昼下がり

だるさ見ており>「母さん」として

君の言いたいもの>青い花

電話をなくせない>バスに乗り

空、青になる>朝 平和あり

生きて命と>言うように飲む

ここは寂しい>海に似ている

俵万智さんの実際の作品

「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日

(第1歌集「サラダ記念日」)

言われたような>言の葉がある

答えるような>水仙の花

言の葉島の>声を知らぬまま

言の葉の香り>つかむ夕べ

紙を拾える>公園の花

呼ばれてみたき>三百六十五秒

煮つめられたような>オレンジ

呼ぶほど思えば>言の葉がある

答えし我が>言葉をさがす

言うためにある>言葉の予感

俵万智さんの実際の作品

「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ

(第1歌集「サラダ記念日」)

眠る夜に>眠れるゆえの

風吹いても>ゆらゆらの時間

君を愛す>時間、コケ>のぼりゆく

ゆく昼下がり>今日のため見る

立つ朝の朝、>吾は見ており

風を切り取る>君の口づけ

光を曲げる>朝 いっせいに

何かにぬるきを>君は味わう

君のゆく町を>待とうと思う

見えてくるなり>君への手紙

俵万智さんの実際の作品

四万十に光の粒をまきながら川面をなでる風の手のひら

(第2歌集「かぜのてのひら」)

おまえの匂いを>告げる一輪

おしゃべりしている>君の足元

「ありがとう」の中に>言い訳を聞く

おまえの匂いを>今朝も聞きたし

我を知らぬ>我が部屋の電話

シクラメンが>咲いたやさしく

君の言いたい>「コマーシャリズム」

声が聞こえる>_風のかたちに

我を笑って>君は見ており

我という名の>赤ちゃんと思う

俵万智さんの実際の作品

男ではなくて大人の返事する君にチョコレート革命起こす

(第3歌集「チョコレート革命」)

生まれるものを>語りはじめる

立ちのぼりくる>君の十年

「友だち」という>言葉のポーズ

「好き」と思えば>「いい」と思えり

生まれ出るもの>立ちのぼりくる

「いいんだ」という>言葉の向こう

いとおしむような>何かを思う

「ありがとう」という>言葉の輪郭

「好き」と思えり>「好き」と思えり

「落ちつきなさい」という>語残して

俵万智さんの実際の作品

バンザイの姿勢で眠りいる吾子よ そうだバンザイ生まれてバンザイ

(第4歌集「プーさんの鼻 」)

会いにくる人>そうだね、ぼうや

子はテーブルの>海を見ている

あなたを愛す>少年の空

子はまずつかむ>人のためゆく

あなたを愛す>街、人かたち

あなたは生きる>始まってゆく

我を静かに>忘れる不思議

五月の朝に>来る夏を待つ

風はしるまで>鳴れども電話

水を飛ばして>歩くだろうか

俵万智さんの実際の作品

「オレが今マリオなんだよ」島に来て子はゲーム機に触れなくなりぬ

(第5歌集「オレがマリオ」)

朝に二人の>朝を塗りつつ

行ってしまった>空の分量

束ねられたる>明るさに会う

風を切りたる>君の横顔

朝に眺める>子らは黙と食む

風船として>抱かれるような

風を切りてゆく>かたちにも似て

君に会えない>風の輪郭

かたちにも似て>爪を塗りつつ

三月、おまえの>君の視線

俵万智さんの実際の作品

制服は未来のサイズ入学のどの子もどの子も未来着ている

(第6歌集「未来のサイズ」)

AI短歌に期待できることは

浦川通

実際に、AIが下の句を作った歌を見て、どうでしたか?

俵万智さん

3秒で100首出されるとね、もうちょっともがいて苦しみなさいよって言いたくもなる。でも、壁打ち相手としては魅力的だなと思いましたね。

浦川通

「壁打ち」ですか。

俵万智さん

自分が考えた歌について、話すことで自分の悩みが見えてきたり、解決したりすることってある。その話しかける相手としてはすごく可能性あるなと思いました。

浦川通

人と話す場合とはどう違いますか。

俵万智さん

歌って割と作者とイコールで見られがちなので、こんな歌を見せたら「今あなた恋してるのね」なんて思われるかなっていう面が結構あるんですよね。AIなら見せても恥ずかしくないし、傷つかない。人間じゃないよさもあるのかな。

俵匠見さん

大量に結果を出されて、こちらも自分で考えるから、友達にアドバイスをもらうよりも、「自分らしいやつってどんなんだろう」って逆に考えさせられるのではないかなと思いました。

俵万智さん

こういうアプリがあったらちょっと欲しくない? 短歌を作り始めた人に寄り添うアプリみたいな。

AIと創作のこれから

俵万智さん

たとえば将棋の世界でも、棋士たちはAIで腕を磨いている。短歌の世界でもそういうツールとして活用できることってあるんじゃないかなって思いました。

浦川通

「歌をつくるとき、AIを使っていいのか」という葛藤があったので、お二人の反応は意外でした。AIと創作の関係について、私たちはどう考えればいいのでしょうか。

俵万智さん

AIに名歌をつくってもらう必要はないですよね。歌の種は人の心にあるわけで。

浦川通

なぜ短歌をつくるのかという、根本的な問題にもかかわってきますね。

俵万智さん

歌をつくるということは、自分の心が感じたことを味わい直すということ。AIは、よりよい表現を模索するための相棒になってくれそうだけれど、歌を詠むのはあくまで自分ですから。

浦川通

短歌の宿題が出たから「AIにつくってもらおう」ではないということですね。

俵万智さん

より多くの短歌を学習したAIのほうがいい歌を作るのを見ていると、先人の歌を100首より1000首覚えたほうが言葉の力がつく、ということもよくわかる。私たちが歌をどう学んでいったらよいか、ヒントも与えてくれていると思いました。

実感を持たぬAI「身にしみて」
などと言わずに秋の夕暮れ

俵万智

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