自民党とカネ

発言で振り返る事件史
  • 田中角栄
  • 竹下登
  • 橋本龍太郎
  • 安倍晋三
  • 岸田文雄
  • 自民党の派閥をめぐる裏金問題は国民の政治不信を招きました。これまでも幾度となく繰り返されてきた「政治とカネ」の問題。渦中に置かれた政治家の発言とともに、戦後政治を振り返ります。

1.大型買収の時代 何でもありの昭和

自民党が結党され、戦後の政党政治が立ち上がる時代。民間企業が利益誘導のため政官界を大規模に買収する事件が1960年代まで相次いだ。
主な事件
世の中にはいろいろの、ものの見方があることを知った
芦田均・元首相、自身の論告求刑裁判で
1948年 昭電疑獄事件
戦後経済の復興を目的とした政府の大口政策融資をめぐり、化学肥料メーカーの昭和電工が違法献金をした事件。政治家ら64人が逮捕され、芦田内閣は総辞職。芦田氏自身も起訴された(のちに無罪判決)。
政党の帳簿が不十分なのは当然
(疑獄は)流言ヒゴ
吉田茂・元首相、自由党全国支部長会議でのあいさつで
1954年 造船疑獄
有利な法律の制定をもくろんだ海運、造船業界と政官界の間で贈収賄が行われた。佐藤栄作氏に収賄の疑いが強まったが、犬養健法相の指揮権発動により逮捕には至らず。指揮権発動に対する批判をうけ、吉田内閣は総辞職した。
政治献金でなくワイロだ
楢橋渡・元運輸相、第1審の判決より
1961年 武鉄汚職
東京と埼玉を結ぶ路線として計画された武州鉄道の免許をとるために、当時の埼玉銀行頭取らが楢橋氏に2450万円を渡した。免許権を持つ運輸相に直接カネを渡し、「最後の古典的汚職」といわれる。
オレは小悪人さ
田中彰治・元衆院決算委員長、自身の判決公判前に
1966年 黒い霧事件
田中氏が虎ノ門公園跡地の払い下げをめぐり、関係者から1億円を脅し取った容疑で逮捕。さらに、台湾からのバナナ輸入にからむ利権事件など、一連の汚職事件が続出。佐藤栄作首相は「黒い霧解散」をした。
その後どうなった?

昭電疑獄が広がりを見せていた1948年、「政治活動の公明と公正」を確保するとして、政治資金規正法が施行された。施行当初は寄付の制限は設けられていなかった。

55年に自由党と日本民主党が合同して結党した自由民主党が政権与党の強固な足場を築くと、カネと権力が集中。

カネの問題で自民議員が逮捕される事件もあったが、法改正には至らなかった。

黒い霧事件の1つ、「共和製糖からの不正融資問題」をめぐり、記者団に弁明する重政誠之・元農林相=1966年10月14日、東京・永田町の自民党本部
第30回総選挙(1963年) 283議席
第31回総選挙(67年) 277議席
過半数維持
67年 38%
「黒い霧解散」でも
佐藤内閣の支持率アップ

2.ロッキード事件の時代 力はカネなり

1972年、54歳の若さで首相の座についた田中角栄氏。「庶民宰相」などと評される一方、金の力で政治を動かした田中氏の「金権政治」の暗部が、次々と事件化した。
主な事件
記憶にございません
田中角栄・元首相の盟友、小佐野賢治・国際興業社主が証人喚問で
1976年 ロッキード事件
米国の大手航空機メーカー・ロッキード社が日本の政治家らに金を渡した事件。田中氏は同社から在任中に5億円を受け取った疑いで逮捕。一審、二審で懲役4年の実刑判決を受け上告したが、93年に亡くなった。
ばかなことを…あほな
田中角栄・元首相、記者団から辞任問題を聞かれて。その1カ月半後に内閣総辞職
1974年 金脈問題
洪水時に水につかる信濃川の河川敷を、田中氏のファミリー企業が買収。その後、堤防が造られて一等地となり、田中氏が事前に計画を知っていたとされた。疑惑を受け、田中内閣は総辞職に追い込まれた。
おやじ以来の遺産という感じを持っていた。それで気安く甘えたところはあった
松野頼三・元防衛庁長官、衆院航空機輸入調査特別委員会での証人喚問で
1978年 ダグラス・グラマン事件
米国の航空機メーカーが航空機売り込みのため、日商岩井(現・双日)を通じて政府当局者に金を支払ったとされる事件。松野氏には5億円が渡ったとされる。
その後どうなった?

田中氏の金脈問題への批判が強まると、1975年に政治資金規正法が改正。企業の規模に従って献金限度額を設けるなど規制が強化された。

ロッキード事件が表面化した後に行われた第34回衆議院選挙では、自民党の結党以来初めて、議席占有率が5割を下回った。

自民党内でも金権政治への反発が高まり、「まつりごと清ければ人おのずから和す」の意を込めた「清和会」(現・清和政策研究会)を福田赳夫・元首相が立ち上げた。

参院決算委員会で田中角栄・元首相の「金脈問題」を追求する野末陳平議員=1974年11月14日
74年 12%
田中内閣の支持率急落

3.リクルート事件の時代 疑惑が止まらない

昭和から平成へと時代が変わり、田中元首相の田中派の流れをくんだ経世会が永田町の権力を掌握。政治とカネの問題が相次ぎ、議員の疑惑が芋づる式に増えていった。
主な事件
(今後も疑惑が)出るとは全く予測していない
竹下登・元首相、1989年4月11日の衆院予算委で。その11日後、新たな疑惑が発覚した
1988年 リクルート事件
リクルートのグループ企業「リクルートコスモス」の未公開株が、竹下首相(当時)や宮沢喜一氏、森喜朗氏ら多数の政治家らにばらまかれた。値上がりが確実な未公開株は計7億円分以上が売却された。1989年4月25日、竹下首相は退陣を表明。
悪かったのは金丸信1人
金丸信・元自民党副総裁、議員辞職の心境を記者団に問われ
1992年 東京佐川急便事件
金丸氏が東京佐川急便側から5億円の献金を受けていた事件。金丸氏は政治資金規正法違反の罪で略式起訴され、議員辞職に追い込まれた。
その後どうなった?

自民党が負った代償は大きく、野党が提出した内閣不信任案に自民党の一部議員も賛成し、1993年の衆院選で非自民政権が誕生。結党以来初めて野党に転落し、55年体制が崩壊した。

一連の政治と金をめぐる事件を受け、1994年に政治資金規正法が改正。政治家個人への企業・団体献金の禁止や、政治資金パーティーの公開基準額が100万円超から20万円超に引き下げられた。ただし、献金の減少を補うために政党交付金が導入された。

東京佐川急便事件をめぐり、金丸信氏の議員辞職を求める抗議のはがきが青島幸男議員の事務所に集まった=1992年10月9日
第39回総選挙(1990年) 275議席
第40回総選挙(93年) 223議席
55年体制の崩壊。過半数を下回る

4.政権交代前後の時代 改正してもザル法

1994年に再び政権の座についた自民党だが、政治資金規正法の抜け穴をかいくぐるように政治とカネの問題は続く。法改正と疑惑が繰り返され、再び野党転落へと向かう。
主な事件
(1億円受領について)記憶はございませんが、ほかの方々がそう言っているのであれば、そういう事実があったかもしれないと今考えます
橋本龍太郎・元首相、事件をめぐり証人として出廷した公判で
2004年 日歯連ヤミ献金事件
橋本氏が日本歯科医師連盟会長から1億円の小切手を受け取り、裏金処理されていた事件。橋本派の会長代理だった村岡兼造・元官房長官らに有罪判決が下された。
ナントカ還元水とかいうものを付けている
松岡利勝・元農水相、国会での答弁
2007年 事務所費・光熱水費問題
松岡氏の資金管理団体が、光熱費や水道代が無償の議員会館に事務所を置きながら、5年間で計2880万円を光熱水費として計上していた。また、不透明な事務所費の計上も判明。松岡氏は疑惑の渦中に自殺。
その後どうなった?

政治資金規正法は1948年の施行以来、政治とカネの問題が政界を揺るがすたびに改正を重ね規制を強めてきたが、不正は後を絶たなかった。

事件を受けて、政治団体間の寄付を年間5千万円に制限し、国会議員の関係政治団体に全ての領収書の公開を義務づけるなどの法改正が行われたが、積もりに積もった自民党政治への不信は09年の政権交代を招いた。

日歯連ヤミ献金事件をめぐり、在宅起訴を受けて自宅で会見する村岡兼造・元官房長官=2004年9月26日
第44回総選挙(2005年) 296議席
第45回総選挙(09年) 119議席
再び野党へ転落

5.1強の時代 緩んだ規律

3年間の野党時代を経て、2012年の総選挙で圧勝した自民党。地域での支持基盤の分厚さを生かしつつ、民主党政権時代を徹底的に批判することで「自民1強」を完成させる。
しかし、またも「おごり」とも受け取れるような、中堅議員らによる大胆な汚職や買収事件が相次いだ。
主な事件
派閥の長として質問を受けた場合は答える。ただ会計に関わった人間でなければわからない
岸田文雄首相、衆院予算委で
2023~24年 自民派閥の政治資金パーティーめぐる裏金事件
自民党の最大派閥・安倍派などでは、派閥の政治資金パーティーで各議員にパーティー券の販売ノルマを課していた。派閥はノルマを上回った分を議員に還流していたが、その金額は政治資金収支報告書に記載していなかった。
(首相の事務所とホテルが)1人5千円で合意したが、契約ではない
安倍晋三・元首相、国会答弁で
2019年 「桜を見る会」問題
安倍氏の後援会が「桜を見る会」の前日に開いた夕食会をめぐり、安倍氏側は費用を補塡(ほてん)した約708万円を含む約3千万円の収支を政治資金収支報告書に記載していなかった。
むかつく
頭にくる
秋元司・元衆院議員、有罪判決に対する怒りを弁護人に漏らす
2019年 統合型リゾート(IR)事業めぐる汚職事件
秋元氏は内閣府副大臣だった時期に、カジノを含む統合型リゾート(IR)への参入を目指す中国企業側から約760万円の賄賂を受け取った。保釈中には贈賄側に公判での偽証を頼んだとされる。
長年ひとりぼっちで地元政界に仲間が欲しかった
河井克行・元法相、自身の公判で
2020年 参院選広島選挙区における大規模買収事件
克行氏は、2019年の参院選広島選挙区で妻の案里氏の当選を図るために、地元議員ら100人が選挙運動を手伝う報酬として計約2900万円を渡した。克行氏は公職選挙法違反の罪で有罪判決を受けた。
(業者から提供された)現金はあくまで政治献金の趣旨だと受け止めていた
吉川貴盛・元農水相、自身の初公判で
2020年 鶏卵業社と吉川貴盛・元農林水産相の汚職事件
吉川氏は、鶏卵大手の前代表から500万円の現金を大臣室などで受け取った。前代表は、国際機関が動物福祉の観点から検討していた飼育基準案への反対や、日本政策金融公庫の融資条件の緩和を求めていた。
にわかにほんまかいなって感じ
何がどうなっているかは一番僕が知らないかもしれない
薗浦健太郎・元衆院議員、議員辞職の1カ月前、朝日新聞の取材に
2022年 薗浦健太郎・元衆院議員の政治資金パーティー収入不記載事件
薗浦氏は自身の政治資金パーティーの収入約4千万円を政治資金収支報告書に記載しなかった。当初、薗浦氏は秘書から過少記載の事前報告があったことを否定したが、説明を一転して認めた。
その後どうなった?

繰り返される政治とカネの問題のなかでも、特に自民党を直撃したのは、派閥の政治資金パーティーをめぐる裏金事件だった。

自民党の最大派閥・安倍派などによる裏金づくりは長年慣習化していた。

世論は強く反発し、2024年の衆院島根1区の補欠選挙や静岡県知事選など与野党対決型の大型選挙で自民党は連敗した。

衆院島根1区の補欠選挙で、裏金問題について頭を下げる自民党の小渕優子選対委員長=2024年4月16日
疑惑の金額
85人で計5.8億円 2018~22年の政治資金報告書へ不記載額
39人を処分 離党勧告や党員資格停止など
裏金問題で派閥解散
政治とカネ 決別は

終戦直後から「政治とカネ」の問題はたびたび浮上し、1948年に制定された政治資金規正法。

しかし、55年に結党した自民党のもとでも疑惑は繰り返され、政治生命を絶たれた有力議員も少なくない。

そのたびに法改正で規制を強めてきたが、自民政治は今もカネの問題から決別できずにいる。

連載 解剖自民党