AIによる収益強化を模索するグーグル、検索で自動生成される「AI Overviews」にも広告を掲載へ

Google 検索でAIが検索結果の概要を生成して表示する「AI Overviews」に、グーグルが広告を表示する方針を明らかにした。生成AIが普及する時代において、最大の収益源である広告ビジネスを適応させていく試みのひとつとなる。
グーグルの開発者会議「Google IO 2024」に登壇したグーグルのCEOのスンダー・ピチャイ。
グーグルの開発者会議「Google I/O 2024」に登壇したグーグルのCEOのスンダー・ピチャイ。Photograph: Jeff Chiu/AP Photo/Aflo

検索における抜本的な見直しを発表したグーグル。これはユーザーの検索クエリ(検索ワード)に対して人工知能(AI)が生成した回答を表示する「AI Overviews」という要約機能だが、グーグルによると近いうちに自動生成された検索結果に広告が含まれるようになるようだ。

このAIによる要約機能において、グーグルは検索広告とショッピング広告のテストを実施する計画を5月21日(米国時間)に発表した。これはグーグルが検索広告における支配力を新たな時代にも維持できるようにする動きとなる。AI Overviewsは開発者会議「Google I/O」で発表されてすぐに米国内のすべての英語版ユーザーに提供開始されたものの、広告がどれだけ広範囲または早期に表示され始めるようになるかは不透明だ。

グーグルが公開したスクリーンショットには、服のしわをとる方法を尋ねるユーザーに対して、ウェブからヒントを得てAIが生成した要約と併せて、ワードローブの衣服をシャキッとさせるというスプレーのカルーセル広告が下に表示される様子が示されている。

Courtesy of Google

AI Overviewsは、ユーザーがOpenAIの「ChatGPT」やスタートアップのPerplexityといったGoogle 検索の置き換えを狙うツールへのユーザーの流出を防ぐことが目的だ。これらのツールはAIが生成した文章を使うことで、これまでGoogle 検索に投げかけられてきた多くの質問に答えてくれる。

また、ChatGPTに追随しようとするグーグルの戦略に関しては、いつどのように広告がAI Overviewsに統合されるのかが大きく注目されている。検索広告が最大の収益源となっているグーグルにとって、広告の配置やデザインのわずかな変更でも収益に大きな影響を及ぼす可能性がある。

「スポンサー広告」のセクションに表示

今回の発表では、AI Overviewsの新しい広告フォーマットに関する詳細はほとんど明らかにされなかった。広告は「検索クエリとAI Overviewsの両方に関連性がある場合、AI Overviewsにおいて明確に『スポンサー広告』とラベル付けされたセクションに表示されることになるでしょう」と、グーグルのバイスプレジデント兼広告担当ゼネラルマネージャーのヴィディヤ・スリニヴァサンは公式ブログへの投稿で明かしている

AI Overviewsでは既存のキャンペーンの広告が利用されることから、広告主はテストから完全にオプトアウトしたり、この機能に表示されるように広告の設定やデザインを調整したりする必要はない。「広告主からのアクションは不要」と、スリニヴァサンは説明している。

グーグルは昨年、検索でAIが生成した回答のテストを開始した際に、特定の商品の広告をその機能に統合すると発表した。そのときの一例では、AIによって生成された子ども向けハイキング用リュックサックのリストの先頭に、スポンサー広告のオプションが表示されていた。

この機能の初期のテストでは、ユーザーはAI Overviewsの上部と下部に広告があると好ましいと思うことが明らかになっている。グーグルよりはるかに小規模なライバルのBingは検索用のチャットボット「Copilot」に商品の広告を表示するが、5月20日に試した限りでは、このAI Overviewsの競合となるBingの機能に広告は表示されなかった。

AIによる広告ビジネスの強化を模索

ChatGPTのようなテクノロジーが数年ごとに登場するたびに、インターネットの世界で20年以上にわたって最も収益性が高く安定した企業のひとつであるグーグルの検索広告ビジネスをついに打ち破るイノベーションになるのではないかと、メディアや投資家は思いをめぐらせている。

グーグルの最高経営責任者(CEO)のスンダー・ピチャイは、過去1年の投資家たちとの電話での対話において、新たな検索体験がもたらす自社の広告ビジネスへのリスクを軽くあしらってきた。そして、スマートフォンやアマゾンの脅威など従来と同様に変化を乗り切れるという自信を表明してきたのだ。

グーグルのクラウド事業とハードウェア事業の成長により、グーグルの収益における検索への依存度が下がっていることも追い風になっている。グーグルの親会社であるアルファベットの収益は2019年当時、その60%以上が検索広告から得られていた。ところが、昨年はその数字が約57%まで着実に低下した一方で、23年度の利益は全体で約740億ドル(約11兆1,000億円)と過去最高水準に達している。

とはいえ、AI Overviewsの広告がどのような成果を上げるにしても、従来の検索広告はグーグルにとって重要な位置づけであり続けるだろう。その理由のひとつは、AIが生成した回答は、アルゴリズムによって要約が役立つであろうと判断された一部の検索クエリに対してのみ表示されるからだ。つまり、従来の検索広告用のスペースを伴う大量の検索結果のページが、今後も表示されるということである。

さらにグーグルは、AIを別の方法で使って広告ビジネスを強化する道を模索している。今回の発表においては、写真撮影などの作業に関連する広告主の制作コストの削減に寄与する画像生成ツールのアップデートも発表された。これを使うことで、広告主はより多くの予算をグーグルに割き、実際に広告を掲載できる。

またスリニヴァサンの投稿によると、グーグルは「複雑な購入決定」においてユーザーを導いて支援する新たな検索広告体験のテストを実施する予定だ。例えば、ユーザーがアップロードした家具の写真を分析することで、短期的な収納の選択肢を提案する、といった具合である。

そのような高度なAI対応フォーマットを導入することで、グーグルは従来の広告枠と比べて高い広告料を集められる。そして、グーグルの懐はこれまで以上に潤うことになるかもしれない。

(Originally published on wired.com, edited by Daisuke Takimoto)

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