テスラの低価格EVは2025年に発売? イーロン・マスクは“約束”を守れるか

テスラの最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスクが、EVの低価格モデルを2025年に発売する計画を投資家に明かした。EV市場で攻勢をかけるBYDなどの中国メーカーに対抗する狙いがありそうだが、果たして“約束”を守れるのか。
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Photograph: Tolga Akmen/Bloomberg/Getty Images

テスラの最高経営責任者(CEO)であるイーロン・マスクが1月24日(米国時間)、電気自動車(EV)の低価格モデルを2025年後半に投入する計画を投資家たちに明らかにした。この野心的なスケジュール通りに発売できれば、勢力を拡大する中国のEVメーカーを十分に迎え撃てるかもしれない。

マスクが言及した「次世代」の小型EVは、作家のウォルター・アイザックソンが手がけたマスクの伝記で 予告された25,000ドル(約370万円)のエントリーモデルに相当する可能性がある。この日の投資家向け電話会議でマスクは、未発売モデルの価格帯については言及していない。

しかし、テスラが25年という生産目標を達成すれば、このクルマは米国市場で最も安価なEVとなり、他国の競合メーカーが提供する格安EVと競合する可能性がある。現時点でテスラは「モデル3」の基本モデルを米国では35,100ドル(日本では561万3,000円)で販売している。新モデルが顧客に届き始める時期については、マスクは明言しなかった。

いかに価格を下げられるか

EVの価格は、さらなる普及を阻む大きな障壁となっている。コンサルティング会社のデロイトが最近実施した世界的な調査によると、高金利が続くなか、特にドイツやアメリカ、日本ではドライバーの購入決定を価格が左右している。自動車を専門とする調査会社のKelley Blue Bookによると、23年12月の米国車の平均価格(内燃機関や電動などすべて含む)は48,800ドル(約720万円)だったが、EVは50,800ドル(約750万円)だった。

EVの価格帯を下げる方法を見つけることは、テスラにとっても重要だろう。他のメーカーがEVに本格参入するなか、テスラを世界トップのEVメーカーの座から引きずり下ろそうとする勢力との世界的な価格競争に陥っているからだ。

中国メーカーのBYD(比亜迪汽車)が昨年秋にはテスラより多くのEVを納車したが、それでも年間の納車台数では米国の自動車メーカーが上回っている。中国の業界団体によると、中国の自動車輸出は23年は前年比2倍以上に増加し、400万台以上が輸出された。

米国では保護貿易政策があることで、安価な中国製の自動車を米国内では購入できない。しかし、BYDを含む他国の自動車メーカーは、最も重い関税を避けるためにメキシコでの生産を検討していると報じられている

今回の投資家向け電話会議で、マスクは“ライバル”たちに敬意を表していた。「中国の自動車メーカーは世界で最も競争力があります」と、マスクは言う。「貿易障壁がなければ、世界のほとんどの自動車メーカーを駆逐するでしょう。中国メーカーは非常に優秀ですから」

“予定通り”の生産能力には疑問符も

テスラが最後に「次世代のEV」に関する計画に触れたのは、2023年3月の投資家向けイベントでのプレゼンテーションのときだった。スライドにはグレーのシートで覆われたクルマの画像が映し出され、テスラのファンたちをやきもきさせたのである。今回の電話会議でマスクと幹部たちは、新モデルが「革命的」な生産技術に基づいていると語ったが、その詳細については明らかにしていない。

こうして次世代モデルについて今回の電話会議で明らかにされたとはいえ、それを予定通りに生産する能力については疑問符が付く。テスラは新モデルを発売する際に、マスクが最初に示したスケジュールから数カ月、ときには数年も遅れて納車している。電動ピックアップトラック「Cybertruck(サイバートラック)」や完全電動セミトレーラー(大型牽引トラック)「テスラ セミ(Tesla Semi)」、「ロードスター」の第2世代モデルもそうだ。

「わたしはあれこれ言ってしまいますが、そこは話半分に聞いてほしいのです」と、あまりに楽観的な目標を示すことで悪名高いマスクは言う。「わたしはみなさんがひっくり返って驚くようなことはしたくありませんが、時間に関しては楽観的であることが多いのです」

WIRED US/Translation by Daisuke Takimoto)

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