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玩具による窒息の危険性 #こどもをまもる

山中龍宏小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長
実際にこどもが窒息死したマラカス(筆者撮影)

 昨日の午後、外来の場で気になることがあった。1歳2か月の女児が咳や鼻水、軟便があるということで来院した。当院の受診は初めてであった。通常の聴診をして、口の中や耳の中を診て、軟便があるためにベッドに寝てもらい、腹部を診ることにした。ベッドに寝かされるとこどもは泣き出した。母親は、こどもをなだめるために、手提げの中から袋を取り出し、その袋から、小さなマラカスのおもちゃを取り出した。袋の中には、5つくらい、ピンクや黄色、青、緑などいろいろな色の小さなマラカスが入っており、そのうちのひとつをこどもの顔の前で振ってあやした。そのマラカスを見て、私はびっくりした。「あのマラカスと同じだ!!」

いつも思い出すこと

 診療していると、ケガをしたこどもを診ることがある。時には重傷の例もあり、死亡する例も経験する。30数年前、1歳11か月児がミニトマトを喉に詰まらせて来院し、3週間くらい治療したが死亡した。そのこどもは、自宅裏の畑で母親と一緒にミニトマトを摘んでいて、まだ青いミニトマトを口に入れたところ窒息してしまった。今でも、食事に出てきたお皿の上にミニトマトがのっているのを見ると、いつもあのケースを思い出してしまう。今回、おもちゃのマラカスを見た途端、20年くらい前に送ってもらった小さなマラカス(写真)のことを思い出した。

 1歳になったばかりのこどもが、この写真のマラカスを口に入れて喉に詰まらせ死亡したことがあった。その後、私のところにこのマラカスを送ってもらい、現在も私が保管している。このマラカスは、クリスマスプレゼントの箱に飾り物としてつけられていた景品であった。

乳幼児の喉に詰まりやすいもの

 これまで乳幼児が窒息したものとして、ミニトマト、大粒のぶどう、ウズラの卵、木製おもちゃ、スーパーボールなどがよく知られている。ミニマラカスの丸い部分は、これらのものの形とよく似ている。私が保管しているマラカスは実際に窒息死が起こったものであり、危険性が高い製品と認識する必要がある。

 診察を済ませ、薬を処方し、家でのケアについて説明した後、マラカスの危険性、死亡した例があることを話して、このマラカスは処分した方がいいと両親に話した。

 今回、私が診察の場で見た小さなマラカス、どのようなものなのか、どこで販売しているのかをインターネットで検索してみた。すると、これは鳥(インコなど)が使用するおもちゃらしいことがわかった。大きさは約6.5×2センチとなっており、写真のマラカスの形状と酷似している。このマラカスを鳥が咥えて遊ぶのはまったく問題はないが、乳幼児には危険性が高い製品だと思う。この玩具は、鳥のために購入したのか、それとも鳥はいないがかわいいのでこども用に買い求めたのかは保護者に聞きそびれてしまった。

 最近ではペットが家の中で飼われることも多い。ペットの躯体が小さければ、ペット用の製品は小さいものとなり、同居している乳幼児が手に取りやすくなって、誤飲、誤嚥する可能性が高くなる。

玩具の安全の現状は?

 近年、インターネット取引の拡大に伴って様々な製品が市場に流通し、安全性を確認できない製品が海外から流入したり、こども用の製品で事故が発生したりするなど製品安全行政上の課題が浮上し、2024年6月、消費生活用製品安全法等の一部改正が行われた。

 欧米では、玩具に関する安全規制が導入されているが、わが国では特定製品に指定されている一部の製品を除いて事前規制はない。そのため、外国で技術基準に適合しないとして販売が禁止されている製品でも、国内での流通を防止することができなかった。そこで、今回の法改正により「子供用特定製品」のカテゴリーを作り、対象製品の事前規制を行うことになった。今後は実務上の検討が行われ、2025年末までに施行されることになっている。

玩具の安全性についての検討が始まる

 これから経産省で、こども用の玩具の安全性についての検討が始まるが、検討すべき項目は多岐にわたる。一般的な安全性の検討の他に、下記のような検討もしていただきたい。

① 玩具という名称がついていない製品でも、こどもは玩具として使う状況はよく見られる。法で規制する玩具については、なるべく広く網掛することをお願いしたい。

② 分解することができる玩具の一部の部品で窒息などが起こっている。玩具を分解したときの危険性も基準に導入してほしい。

③ 今回紹介したような「こども向け玩具ではないもの」をこどもが使用する場合の危険性についても検討していただきたい。

④ 手作り玩具の危険性についても、作る時や販売時の注意点について周知してほしい。

 これらについて安全基準で規制することはむずかしい点もあると思うが、こどもの安全のために、規制対象をなるべく広く、多くしてほしい。

 さらに、おもちゃによる事故の情報を集めるサーベイランス事業、こどもの身の回りに置くおもちゃなどの危険性を判定できるアプリの開発、リコールされた玩具の自動チェックシステムの開発なども望まれる。

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小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989���焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員、日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会委員。

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