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「怨念と復讐」の韓国の政争! 終わりなき「尹錫悦対李在明」の対決

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
尹錫悦大統領と李在明代表(大統領室と民主党HPから筆者キャプチャー)

 韓国の政治の世界には「ノーサイド」という言葉は存在しない。過去を水に流し、国民のため、国家のため一致団結、結束することは戦争でも起きない限りあり得ない。そのことは「韓流ドラマ」を見れば、一目瞭然だ。常に怨念と復讐が交錯している。

 周知のように、2年前の大統領選挙では与党「国民の力」が制し、今年4月の総選挙では野党「共に民主党」(民主党)が圧勝した。

 戦争も政争も「勝てば官軍、負ければ賊軍」となるものだが、ねじれ現象が起きたためか、与野のどちらが勝者で、敗者なのか、区別が付かなくなっている。まさに韓国の政局は混沌とした状況に置かれている。

 この2年間、大統領に当選し、政権を発足させた尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は「文在寅(ムン・ジェイン)政権で不法と不正を犯した人たちも法とシステムに基づいて相応の処罰を受けなければいけない」と公言したとおり、文前政権に対して積弊捜査を執拗に続けてきた。特に文前大統領と大統領選挙で死闘を演じた政敵の李在明(イ・ジェミョン)「民主党」代表をターゲットに据え、不正疑惑を炙り出し、あわよくば縄を掛け、収監させようとしているようでもある。

 一方、大統領選挙では0.7ポイント差で惜敗したものの国会を掌握し、息を吹き返した李代表もまた、尹大統領に照準を定め、攻撃し、レイムダック化させることでこれまた隙あらば弾劾に追い込もうと画策している。

 先週この欄で国会のホームページに尹大統領弾劾を要求する国民嘆願が6月24日にスタートし、7月3日午前の段階で100万人を突破したことを伝えたが、嘆願はその後もさらに増え続け、期限の今月20日までに少なくとも3倍の300万人に達するものと推測されている。

 こうした動きに触発されたのか、民主党NO.2の朴賛大(パク・チャンデ)代表代行兼院内代表は「野火のように広がる怒りの民意を重く受け止めよ」と、尹大統領を牽制してみせたが、「弾劾へと向かう列車を始動させるための燃料がまだ少し足りない。大統領夫妻の違法行為を立証する具体的な根拠がもう少し出てこなければならない」と、第2野党の「祖国改革党」の曺国(チョ・グク)代表が言うように国会で特別検察法を通過させて大統領のアキレス腱でもある海兵隊上等兵殉職事件捜査への「権力乱用疑惑」や金建希(キム・ゴンヒ)夫人の「ブランドバッグ受領疑惑」や「ドイツモーターズ株価操作疑惑」、さらには金夫人親族の「ソウル~楊平高速道路路線操作疑惑」などを激しく追及する構えだ。

 総選挙敗北後、野党の攻勢に防戦���方だった尹大統領も態勢を立て直し、ここにきて反撃に転じている。

 尹大統領の出身母体である検察が李代表と金恵景(キム・ヘギョン)夫人に「京畿道法人カード流用疑惑」関連で検察に出頭を命じたのがその一例である。

 「京畿道法人カード流用疑惑」とは2018年~2019年まで京畿道知事だった李代表の金夫人が道庁の女性公務員にサンドウィッチと果物購入代金を京畿道の法人カードで決済させ、私的に流用した疑惑のことである。

 当事者でないのに李代表までも出頭を命じられたのは政府内にある反腐敗総括機関の「国民権益委員会」が「夫が知らないはずはない」として、所管の水原地検に調査を依頼したことによる。

 仮に李代表が出頭に応じれば、「城南FC不法後援金疑惑」の2回、「大庄洞土地開発不正」の2回、「柏峴洞特恵疑惑」で1回、「北朝鮮不正送金疑惑」で2回を合わせると、これで8度目の検察召喚となる。この件ではすでに知事時代の秘書も背任容疑で逮捕され、調査を受けている。

 金夫人はこの件とは別に、大統領選挙期間中に飲食店で党の関係者ら3人に10万ウォン相当の食事を提供したことによる公職選挙法違反(公職選挙上の寄付行為)の疑いも掛けられ、現在、水原地方裁判所で1審の裁判を受けている。

 検察は李夫妻を取り調べた後に起訴するかどうか方針を決めることにしているが、李代表はこれまでに7件の疑惑で捜査を受けており、すでにそのうち4件は現在、裁判に掛けられている。早ければ、そのうちの1件は10月にも第1審判決が下される。

 「民主党」はこうした検察の動きに反発し、都市開発事業を巡る不正事件や京畿道知事在職中の北朝鮮への不正送金などの事件を担当している4人の検事に対する弾劾訴追案を国会に提出し、李代表を断固防御する構えだ。

 検察は文前大統領に対しても全く手を緩めてはいない。

 文前大統領もまた、釜山副市長の金融委員会在職当時の「収賄容疑調査隠蔽疑惑」、「蔚山市長選挙への介入疑惑」、「原発データー改ざん疑惑」、「太陽光事業への電力基金の不当拠出疑惑」、北朝鮮漁師送還事件や北朝鮮海上警備兵による「韓国公務員射殺事件」など様々な疑惑、事件を抱えている。ここにきて、金正淑(キム・ジョンスク)夫人の海外出張を含む公私混同疑惑も再燃している。

 検察は最近、文前大統領の娘、ダヘ氏の海外移住支援疑惑(国内の自宅売却を巡る疑惑)の再調査にも乗り出し、文政権下の2019年に「国民の力」の前身である「自由韓国党」の議員らから出されていた疑惑への監査請求を棄却し、不問にした監査院を家宅捜索し、証拠物を押収したばかりである。

 同時に文前大統領の娘婿が航空業界で実務経験のないのに某航空会社の専務理事に採用された一件についても調べている。娘婿の採用はこの航空会社の創業者である元国会議員が文政権から中小ベンチャー企業振興公団理事長に任命されたことへの代価ではないかと検察は睨んでいる。

 急進野党の「祖国改革党」の曺国代表の大法院(最高裁)の判決も9月にある。1審���2審判決でいずれも懲役2年の実刑を宣告されている。有罪となれば、収監され、議員を失職し、公民権も剥奪される。 

 韓国の政争は検察対野党の図式になっているが、過去の例からして裁判所が検察に軍配を上げる判決を下すことはあっても政治家、特に野党に忖度するような判決を出したケースは希である。

 年内に二人の野党党首が揃って収監されるという前代未聞の事態が起こり得るかもしれない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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