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アトピー性皮膚炎の新薬アブロシチニブ:効果と安全性を徹底解説

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

アトピー性皮膚炎は、多くの患者さんの生活の質を大きく低下させる厄介な皮膚疾患です。従来の治療法では十分な効果が得られないケースも少なくありませんでした。しかし、近年、新しい治療薬が登場し、アトピー性皮膚炎治療に新たな希望をもたらしています。その中でも注目を集めているのが、JAK阻害薬の一種であるアブロシチニブです。

今回は、このアブロシチニブについて、その効果や安全性、使用上の注意点などを詳しく解説していきます。

【アブロシチニブとは:新世代のアトピー性皮膚炎治療薬】

アブロシチニブは、JAK1選択的阻害薬と呼ばれる新しいタイプの薬剤です。JAKとは、細胞内で炎症を引き起こす信号を伝える重要なタンパク質の一種です。アブロシチニブは、このJAK1という特定のタイプのJAKの働きを抑えることで、アトピー性皮膚炎の症状を改善させる効果があります。

この薬は経口薬で、1日1回の服用で効果を発揮します。中等度から重度のアトピー性皮膚炎の患者さんに対して、欧米だけでなく日本でも既に承認されており、現在臨床の場で使用されています。

アブロシチニブの大きな特徴は、症状の改善が比較的早く現れることです。臨床試験では、服用開始後24時間以内からかゆみの軽減が見られ、その後皮膚症状も急速に改善したという報告があります。

【アブロシチニブの効果:臨床試験で示された有効性】

アブロシチニブの効果を検証するため、世界中で大規模な臨床試験が行われました。その結果、アブロシチニブは既存の治療薬と比べて、より高い効果を示すことが明らかになりました。

具体的な臨床データを見てみましょう。JADE MONO-1試験では、アブロシチニブ200mg投与群において、12週間後にEASI-75(湿疹面積・重症度指数が75%以上改善)を達成した患者の割合が44.5%でした。これはプラセボ群の10.4%と比較して有意に高い結果でした。

さらに、かゆみの改善についても顕著な効果が見られました。PP-NRS4(そう痒の数値評価スケールで4ポイント以上の改善)を達成した患者の割合は、アブロシチニブ200mg群で57.2%でした。これはプラセボ群の15.3%を大きく上回る結果でした。

また、デュピルマブとの直接比較試験であるJADE DARE試験では、アブロシチニブ200mgがデュピルマブよりも早期にかゆみを改善させることが示されました。治療開始後2週間の時点で、アブロシチニブ群の48.4%がPP-NRS4を達成したのに対し、デュピルマブ群では23.4%でした。

アブロシチニブは長期使用においても効果が持続することが確認されています。JADE EXTEND試験では、48週間、96週間と長期にわたる観察でも、安定した効果が維持されたことが報告されています。

【安全性と副作用:使用にあたっての注意点】

新しい薬剤の導入には、常に安全性の確認が重要です。アブロシチニブについても、多くの患者さんを対象とした臨床試験で安全性が検討されました。

一般的な副作用としては、吐き気、頭痛、にきびなどが報告されています。これらの副作用は多くの場合、軽度から中等度で、時間とともに自然に改善することが多いようです。

統合安全性解析によると、吐き気は主に治療開始後1週間以内に発生し、中央値15日で自然に解消しました。頭痛も多くは治療開始後1週間以内に発生し、中央値4日で解消しています。にきびについては、100mg投与群よりも200mg投与群で多く見られましたが、重症例は報告されていません。

ただし、JAK阻害薬全般に共通する注意点として、感染症、心血管イベント、静脈血栓塞栓症、悪性腫瘍のリスクが指摘されています。特に65歳以上の方や、長期喫煙者、心血管疾患のリスクが高い方などは、慎重に使用を検討する必要があります。

また、妊娠中や授乳中の方、重度の肝機能障害がある方などは、アブロシチニブの使用が禁忌されています。

アブロシチニブは、従来の治療で十分な効果が得られなかった患者さんにとって、新たな選択肢となる可能性が高い薬剤です。ただし、個々の患者さんの状態や背景を十分に考慮し、適切に使用することが重要です。

アブロシチニブの使用を検討する際は、以下の点に注意が必要です:

1. 治療開始前の検査:血液検査や感染症の有無の確認など、適切な検査を行います。

2. 定期的なモニタリング:治療開始後は、4週間後、その後は8〜12週間ごとに血液検査を行い、副作用の有無を確認します。

3. ワクチン接種:可能であれば、治療開始前に必要なワクチン接種を済ませておくことが推奨されます。

4. 生活指導:日光対策や、感染予防のための手洗いうがいなど、日常生活での注意点を患者さんに説明することが大切です。

アブロシチニブは、アトピー性皮膚炎治療に新たな可能性をもたらす薬剤です。ただし、すべての患者さんに適しているわけではありません。個々の患者さんの状態を十分に評価し、慎重に使用を検討することが重要です。

アトピー性皮膚炎でお悩みの方は、まずは皮膚科専門医に相談することをおすすめします。専門医との十分な相談の上で、自分に最適な治療法を選択していくことが大切です。

参考文献:

1. Gooderham MJ, et al. Practical Management of the JAK1 Inhibitor Abrocitinib for Atopic Dermatitis in Clinical Practice: Special Safety Considerations. Dermatol Ther (Heidelb). 2024. doi: 10.1007/s13555-024-01200-5.

2. Simpson EL, et al. Efficacy and safety of abrocitinib in adults and adolescents with moderate-to-severe atopic dermatitis (JADE MONO-1): a multicentre, double-blind, randomised, placebo-controlled, phase 3 trial. Lancet. 2020;396(10246):255-266.

3. Reich K, et al. Efficacy and safety of abrocitinib versus dupilumab in adults with moderate-to-severe atopic dermatitis: a randomised, double-blind, multicentre phase 3 trial. Lancet. 2022;400(10348):273-282.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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