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乾癬・アトピー性皮膚炎とうつ病のつながり - 知っておきたい心と肌の健康

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

【皮膚疾患とうつ病の意外な関係性】

皮膚の病気とうつ病には深い関連があることが、最近の研究でわかってきました。特に、自分の免疫システムが自分の体を攻撃してしまう「自己免疫性」の皮膚疾患を持つ人は、うつ病になるリスクが高いのです。

例えば、乾癬(かんせん)という赤い斑点ができる皮膚病の患者さんの24%から90%が、何らかの心の病気を抱えているという研究結果があります。また、アトピー性皮膚炎の患者さんも、うつ病や不安障害になりやすいことがわかっています。

さらに驚くべきことに、この関係は逆もまた然りなのです。つまり、うつ病の人が皮膚の病気になりやすいという傾向も見られるのです。台湾で行われた大規模な研究では、うつ病の患者さんが乾癬やアトピー性皮膚炎、円形脱毛症などの自己免疫疾患を発症するリスクが高いことが示されました。

【炎症反応が結ぶ心と肌のつながり】

では、なぜ皮膚の病気とうつ病にこのような関係があるのでしょうか?その答えは、私たちの体の中で起こる「炎症反応」にあるようです。

うつ病と多くの自己免疫性皮膚疾患では、体内で炎症を引き起こす物質(炎症性サイトカインと呼ばれます)の量が増加していることがわかっています。例えば、TNF-α(腫瘍壊死因子α)やインターロイキン-6(IL-6)といった物質です。

これらの炎症物質は、皮膚の炎症を引き起こすだけでなく、脳にも影響を与え、うつ病の症状を引き起こす可能性があるのです。つまり、皮膚と心の問題が、体の中の炎症反応によってつながっているというわけです。

また、長期間続く炎症は、セロトニンという気分を良くする脳内物質の分解を早めたり、ストレスホルモンの分泌を増やしたりすることで、うつ病のリスクを高める可能性があります。

【新たな治療法の可能性と日常生活での対策】

このような関係性が明らかになってきたことで、新しい治療法の可能性も見えてきています。

例えば、乾癬の治療薬は、皮膚症状を改善するだけでなく、うつ症状も軽減する効果があることがわかってきました。これは、炎症を抑える作用があるためだと考えられています。

一方で、うつ病の治療薬である抗うつ薬にも、炎症を抑える効果があることがわかっています。セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)という種類の抗うつ薬を使用している乾癬患者さんは、全身治療が必要になるリスクが低いという研究結果もあります。

また、ミルタザピンという抗うつ薬は、乾癬やアトピー性皮膚炎の症状を和らげる効果があることも報告されています。

これらの研究結果は非常に興味深いものですが、まだ研究段階のものも多く、すべての患者さんに効果があるわけではありません。治療法の選択は、必ず専門医と相談の上で行うことが重要です。

日常生活では、ストレス管理や良質な睡眠、バランスの取れた食事など、心身両面でのケアが大切です。特に、皮膚疾患のある方は、保湿を十分に行い、皮膚を清潔に保つことが重要です。また、規則正しい生活リズムを保ち、適度な運動を取り入れることで、心身のバランスを整えることができます。

最後に、皮膚疾患やうつ病で悩んでいる方は、一人で抱え込まずに、早めに専門医に相談することをおすすめします。

参考文献:

1. Peła, Z. et al. (2024). Depressive Disorder and Dermatological Autoimmune Diseases. Journal of Clinical Medicine, 13(11), 3224.

2. Ferreira, B.R. et al. (2017). Analysis of the Prevalence of Mental Disorders in Psoriasis: The Relevance of Psychiatric Assessment in Dermatology. Psychiatria Danubina, 29(4), 401-406.

3. Cork, M.J. et al. (2020). Dupilumab improves patient-reported symptoms of atopic dermatitis, symptoms of anxiety and depression, and health-related quality of life in moderate-to-severe atopic dermatitis: Analysis of pooled data from the randomized trials SOLO 1 and SOLO 2. Journal of Dermatological Treatment, 31(6), 606-614.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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