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「日本沈没」「五輪チームお披露目の日本に冷や水」バスケ男子日本代表に勝利した韓国の“視点”は?

金明昱スポーツライター
一時は最大20点差から韓国に追いついた日本。河村勇輝のプレーも光ったが…(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 日本にとってはまさかの敗戦、韓国にとっては大きな自信となった勝利だった。

 5日、東京・有明アリーナで行われた日本代表対韓国代表のバスケットボール男子の国際強化試合。世界ランキング26位の日本は、50位の韓国に84-85で敗れた。

 NBAレイカーズの八村塁と昨季までグリズリーズなどでプレーした渡辺雄太が欠場したとはいえ、“格下”韓国に敗戦した日本にとっては、パリ五輪前にチームの組織力や選手の状態を最終チェックする場でもあっただけに、なおさら反省点の多い一戦だったに違いない。

 一方で、韓国としては1点差ながらもパリ五輪に出場する“格上”の日本に勝利したことの意義は大きかった。今回の勝利を韓国メディアも大々的に報じているが、共通しているのはその実力差から「日本に勝てるとは思っていなかった」という視点だ。

 韓国の「MKスポーツ」は「“日本沈没” 若い韓国が日本をアウェー第1戦で勝利」とのタイトルで勝利を報じていたが、実際に今回来日した韓国代表メンバーは、若い選手を中心に構成しながらも日本に勝利したのが話題だ。

平均年齢は24歳と若手で構成

「スターニュース」は「韓国はベストメンバーを構成できなかった。シーズン終了からまだ日が浅く、五輪を目標にしているわけでもないため、1996年生まれのピョン・ジュンヒョン(28歳)が最年長として主将を務め、若い選手たちでチームを作り、未来のための経験を積めるようにした」と伝えている。

 実際、韓国はパリ五輪出場権を逃しており、今回は若手の強化に重きを置いた。来日メンバーもBリーグの仙台89ERSでプレーするヤン・ジェミン(25歳)以外は、韓国プロバスケットボールリーグ(KBL)所属で、平均年齢は24歳と若かった。

 また、今回のチームは6月29日から集まって練習を開始。「日本代表よりも戦力はもちろんのこと、息を合わせる時間も少なかった。そのため、大きな期待をしていなかった���が事実だ」(スターニュース)と日本を相手に簡単に勝てないとも見ていた。

世代交代が成功した韓国男子バスケ

 しかし、ふたを開けてみると韓国が意外にも戦えることを証明してみせた。韓国の勝利の要因について「中央日報」は「パリ五輪日本代表チームのお披露目を前に冷や水浴びせた“若いアン・ジュンホチーム”果敢な世代交代が通用した」と見出しを打ち、こう分析している。

「アン・ジュンホ監督の指導力と戦術が光った。今年1月、韓国代表の新指揮官として、13年ぶりに現場の指導者として復帰した。実は当初、心配もあった。現在、韓国男子バスケは最悪の沈滞期にあったからだ。昨年9月、杭州アジア大会で中国、日本に押され、歴代最悪の7位に終わり、今年はパリ五輪出場権も得られなかった。それでもアン監督は『歳は若くはないが、若いバスケットボールをする』と自負しているという。最近のトレンドは速さを追求するが、『攻守の切り替えのスピードをさらに上げる』と宣言し、果敢に世代交代を断行した」

 どの選手をどのポジションに置くべきか、「適材適所に起用する能力に長けている」と国内での評価も高いそうで、今回は20代前半か中盤の選手を中心にメンバーを選んだ。

27得点のイ・ジョンヒョンは昨季KBLで5冠達成

 特にガードの25歳イ・ジョンヒョン(KBLの高陽ソノ)は、この日、両チーム最多となる27点を挙げる活躍ぶり。それも納得なのは、今年プロ4年目ながら、昨季(2023-24)は44試合に出場し、国内選手で得点1位(1試合平均22.8点)。さらにアシスト賞(平均6.6本)、スティール賞(2.0本)、3ポイントシュート賞、技量発展賞、ベスト5を受賞して“5冠”を達成している選手だからだ。ただ、チームはリーグ8位と低迷。仮にチームの成績がもう少し良ければMVPも獲得できていたと言われた逸材だ。

 試合後「タフな試合だったけれど、勝利という結果を得られてよかった。最後に追い上げを許したのは残念でしたが、素晴らしい試合ができた。個人的にもすごく楽しかった」と語っていた。

 7日、再び日本と韓国の強化試合・第2戦が行われるが、イ・ジョンヒョンのプレーに注目してもいいだろう。いずれにしても日本としては負けられないが、韓国は失うものがなく、連勝へと勢いに乗る。プライドを賭けた次の“日韓戦”も、好ゲームを期待したいところだ。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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